宿の周りを取り囲む気配は8つ。
こちらの出方を伺っているのか、動きはない。
アリューズはそのままつかつかと入り口へと歩いていくと、ためらわずにドアを開けた。
「な!?」
 これには待ち構えていた方も驚いたらしい。
驚愕の表情でしばし凍りつく。
「やあ。俺に用かい?わざわざ裏口まで張り込まなくたって呼んでくれれば出てきたのに」
 親しみさえ感じさせる笑顔でアリューズは男に話し掛ける。
その笑顔を見てか、やっと余裕を取り戻した男は鼻を鳴らす。
「気づいていながら出てきたのか?ふん、観念したということか」
「いいや。中だと宿の人に迷惑がかかるからね。やりあうなら、外の方がいい」
 こともなげに言うアリューズ。男はそれを鼻で笑うと、居丈高に手を突き出した。
「やりあう?こちらは8人、お前は1人。勝てると思っているのか?素直に諦めて神殿から盗み出した”太陽の聖剣”を返せ!」
 その言葉にアリューズの顔から笑みが消える。
「やっぱりウォルヴィス騎士団のものか。で、今回の”アリューズ”はあんたか?」
「?何を言ってる?アリューズとかいう騎士はお前を追跡中だろう。もっともどこでまかれたのやら、俺たちが先にお前に追いついたようだがな。”太陽の7騎士”だかなんだか知らないが、2年も逃げられつづけるとはよほど間抜けらしい」
「全くだね。是非そう言いふらしてくれよ。けど、事情を知らないってことは…あんた、ただの兵士か?」
「兵士とはなんだ!私はガルド。ウォルヴィス正騎士ルードヴィヒに仕えるものだ。ルードヴィヒが、俺の腕前に嫉妬してか推薦しないため、まだ叙勲こそされていないが、腕前は正騎士にすら負けてはいない!貴様を捕まえて本国に帰れば晴れて騎士に叙勲されるに違いない」
「従卒(スクワイア)か。追手が従卒ごときとは俺も馬鹿にされたな」
 アリューズの言葉にガルドの顔色が変わる。
「何!?貴様、侮辱するか!皆、かかれ!こいつを捕らえろ!」
 ガルドの号令と共に、アリューズを遠巻きに囲んでいた兵士達が一斉に剣を抜く。
 そしてガルド自身も剣を抜き、アリューズに斬りかかった。
 ガルドが1歩大きく前に踏み込み、剣で横に払う。その一撃をアリューズは余裕で見切り、鞘に入ったままの剣でその肩口に強烈な一撃を叩き込んだ。
そして振り向きざまに、背後で上段に振りかぶっていた兵士の胴を薙ぎ、そのまま自分に向かってきていた兵士達の一団の中を駆け抜ける。
―――次の瞬間には、ガルドを含めた兵士達は例外なく全員地に伏していた。
 さすがの騒ぎに、通りを行くものたちも足を止め、好奇の目で遠巻きに様子をうかがっている。
 そんな中、ガルドは剣を地に突きさして杖代わりにしながらよろよろと起き上がるとアリューズに向かって問うた。
「ば、かな…!?盗賊ごときが、1人で8人も…。お前は一体何者だ!?」
 その言葉にアリューズは、ガルドだけでなく、見物人たちにも聞こえるような大声で名乗った。
「俺は…アリューズさ。”太陽の7騎士”の一人の、ね」
「なんだと!?」
「一ついいことを教えてやるよ。太陽の7騎士の1人アリューズが、盗賊を追っているというのは騎士団のついた嘘だ。太陽の聖剣を盗んだものこそが他ならぬアリューズ本人なのさ。騎士団はその不祥事を隠すため、自分達の”名誉”を守るために嘘をついたんだよ」
「何!?そ、そんなこと私は聞いていない!」
「そりゃそうだろうな。騎士団にとっては機密事項だ。そう簡単に漏らすわけがない。…さあ、どうする?このまま帰れば見逃してやるよ。まさか従卒が8人集まったくらいで”太陽の7騎士”に勝てると思ってるんじゃないだろうな?」
 そう言ってすごむアリューズに、1人2人と兵士達が逃げ出していく。
ガルドだけは最後まで迷っていたようだったが、アリューズに憎憎しげな一瞥を残して身を翻した。
「やれやれ。食後の運動にもならないな。でも、”宣伝”はできたし、まぁいいか」
 一人つぶやいて、宿の方へと戻ろうとしたアリューズの目に、再びガルドの姿が映った。
「何!?」
 意外な光景にしばし、目を疑う。ガルドは、少し離れたところで戦いの様子を見ていたレティの喉元に剣を突きつけているところだった。
逃げ出したと見せかけて人質をとることを狙ったらしい。
「どうする、騎士様?年端もいかない相棒を見捨てるか?こいつを助けたければ素直に聖剣を渡せ!!」




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☆あとがき☆

まだレポート1個残ってるのに私は何をやってるんでしょう?(聞くなって)
ん〜、でも明日1日やれば終わると思います。
でも終わって逃避エネルギーがなくなったらこの連載はどうなるのか?(笑)
さて、今回は一応アリューズくん活躍できたかな…?
相手が3流すぎて活躍って程でもない?
とりあえず次回はガルドの三流っぷりが炸裂ってことで(そんな予告されても嬉しくない)。

2002/08/06