声が聞こえる…。
闇の中をたゆたっていた意識がその声に反応したのか覚醒しはじめる。微かだったその声が確かに感じられるようになるにつれ、おぼろな情景が次第にその形をなし始めた。そう、これは…。

「レッター」
 あいつが、私に声をかけてきた。
「なんだ?」
 私は不機嫌さを隠そうともせずに答えた。
まったく、戦いの前の大事な時に、おしゃべりなどしているひまがあるのか?
そう言ってやろうと口を開きかけた時、先にあいつの口から思いもかけない言葉が飛び出してきた。
「君はここに残れ」
「!?どうして私を置いていく?お前達の戦いには私が必要だろう?」
「まぁ、確かに君がいてくれたら心強いけどね。僕たちは後のことまで考えなきゃならない。そして、最善を尽くすなら、君は置いて行くべきなんだよ。帰ってこれるにしろ、これないにしろ、君は外に必要なんだ」
 言いたい事はわかる。あいつは間違ったことを言っていない。だが…。
「だが…!何も外からでなくとも、私は何とかして見せる!失敗など考えるな!」
「どうしたんだ?いつも僕たちのことを考えなしだって叱るのは君の方じゃないか。考えるな、なんて珍しいことを言うんだな?」
 そういってあいつは笑って見せた。
そんな風に笑うな…。戦いの前だぞ?緊張感がないにも、程が、ある…。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、レッターちゃん♪あたしたちはきっと帰ってくるから」
 そう言って仲間たちも微笑みかけてくる。今はその微笑みが重い。
「そうさ。俺たちは必ず帰ってくる。そのときこそお前の出番だ。頼りにしてるぞ。お前は俺たちの”救い主”なんだからな。」

 ――――嘘だ。
私は救えなかった。
一番救いたかった者たちを、何より大事だったものたちを私は救うことが出来なかったのに、こんな名前に何の意味がある?
こんな名前、私には必要ない――!!
 …だけど。その名を捨てられないのは、名をつけてくれたのが他ならぬその”大事な者達”だったから。
今となってはこの名だけが彼らと自分をつなぐものだから、私はこの名を捨てられない。
懐かしさと優しさと、そしてどうしようもない程の悲しみと痛みがこの名前には同時に存在している。

『呼んで欲しい』
愛しい者達がくれた大事な名だから。私の想い出は常にこの名とともにあったから。

『忘れてしまいたい』
呼ばれるたび悲しみが胸を突き刺してくるから。その皮肉さに、自分を責め、憎まずにはいられないから。

二つの矛盾した気持ちを抱えながら、私はこの名を名乗ることも出来ず、捨てることも出来ず、今を生きている――。



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☆あとがき☆

はいは〜い、回想編です♪(意味もなくハイテンション)
これは見てのとおりレティの夢ですが、相手が誰かは謎…とかいっても想像ついちゃうかな?(笑)
にしてもこのままではレティが主人公に!?(笑)
ま、それは冗談にしてもアリューズくん、影薄すぎですね。そろそろ主人公らしく、かっこいいとこも見させてあげないと。
問題は友龍にかっこいいシーンなどというものが書けるかどうかですが(おぃおぃ)。

2002/07/29