「馬鹿者」
 痛烈な罵声が耳に響く。言い返すことの出来ない青年は、先ほどから聞こえないふりをして黙って歩きつづけている。
「……」
「大体、お前はいつもそうだ。後先を考えないというか、思慮が浅いというか。そんなことでは世の中やってゆけないぞ?」
「……」
 黙ったままの青年に、隣を歩く相棒から、さらに非難の言葉は続く。言われている事は確かに真実だ。自分には少々考えなしのところがある。それは認めよう。だが…。
「お前には鳥並みの記憶力しかないのか?思考力はミジンコ並だしな。いや、クラゲか?」
「……」
「さてはお前、脳みそで漬物でもつけているのか?漬物好きとは、若いのに渋い趣味をしているのだな」
 わけのわからない例えを交えながらなおも言い募る相棒に、青年はついに耐え切れなくなって言い返した。
「近道しようって言ったのは、そっちだろ?大体、迷ったのは俺だけのせいじゃない!」
「ほう。聞いていたのか。返事をしないから聞いていないのかと思ったぞ」
「う…」
 皮肉めいた視線で見上げられて、青年は言葉に詰まった。
こういわれては、言い返せない。わざと無視していたなどといえば、それこそ何を言われるかわかったものではない。
「…俺が悪かったよ、レティ」
「ふむ。わかればよいのだ」
 尊大にうなずくレティに、青年は気づかれないようにそっとため息をついた。
 彼はアリューズ・シュトラール。19歳。
銀髪に紫紺の瞳。背は高くもなく低くもなくといったところ。
青いマントと銀の鎧を身につけた剣士だ。
 一方のレティはどう見ても12、3歳。長い黒髪に緑眼、白いローブに身を包んでいて、まあ美少女と言っていい類に入るだろう。独特の喋り方と性格を考えなければの話だが。
 そもそもことの発端は、レティが近道をしようといったことにある。
街道を歩いていたのだから、そのまま行けば街に着いたはずのだが、森を迂回している街道を歩くのに飽きたレティが突っ切った方が早いと言い出したのだ。
 それに同意してしまったアリューズもアリューズなのだが…。
よく知りもしない森の中に踏み入った二人は案の定迷ってしまったのである。
当然2人で歩いているのだから、迷ったのはアリューズだけの責任ではない。むしろ最初先頭きって歩いていたのはレティの方だった。
 だが、彼女は道行きが怪しくなってきたとみるや、先頭をアリューズに譲り渡し、全ての責任をアリューズに押し付けたのだった。方向感覚がよい方ではないアリューズは、同じところをグルグルと歩き回り、そのたびにやれ「一度通ったところくらい覚えていないのか」、「もうちょっと考えて歩けないのか」と散々にいわれているのである。
 それでも言い返せなかったのは、こちらが1いえば100は返してきそうな弁舌の差を自覚しているからだ。それに、ちょっとした弱みもある。
(こいつ、すねると力貸してくれないからなぁ…)
 アリューズはやれやれと肩を落としながら、下草をかき分けて前へと進む。
と、不意に視界が開け、見慣れた街道が姿をあらわした。
「やった!やっと出られたみたいだぞ!」
「そうか、良かったな」
 他人事のようにレティが言う。さすがにムッとして、「誰のせいでこんなに苦労したと思ってるんだ!」と言ってやろうとしたが、その前に視界に気になるものが飛び込んできた。
「あれ…?なんだ?」
 街道でなにやらもめているようだ。遠目でよくはわからないが、女性一人を男性3人で取り囲んでいるように見える。どう見ても友好的な雰囲気ではない。
「追いはぎか何かか?大変だ、助けないと!」
 そう言って今にも駆け出しそうなアリューズのマントをレティがくいっと引っ張った。
「やめておけ」
「なんでだよ!?」
「必要ない」
「は?何言ってるんだよ?女の子1人に男3人なんて卑怯じゃないか!」
「…どうしてもというなら止めないが、私は手助けしないぞ?」
「構わないよ」
「…やれやれ」
 アリューズが言い出したらテコでも聞かない事を知っているレティはため息をつきながら、マントを掴んでいた手を離した。
「サンキュ」
 アリューズはそう言って腰に下げていた剣をレティに渡すと、4人のところへと駆け出したのだった。



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☆あとがき☆

いきなり道に迷った主人公!
しかも女の子に頭が上がんない!!
…情けな〜(殴ッ!)。
SN2のSSにもアリューズくんっているけど、こっちのが先です。名前考えるのがめんどいので流用(おぃ)。
ちなみにレティはヒロインじゃないです、多分。ま、彼女は…なので。
後、レティってのは愛称で、本名(?)はレッターです。ヘンな名前…。
って、いうか、私は誰に向かってこのあとがきを書いてるんだ?(笑)

2002/07/23