プロローグ

 神殿に灯された明かりがチラリと揺れる。
暗闇にともされた明かりは通路の両側に整然と並び、あたりを照らしている。
その様は厳粛のようでもあり、また、不気味にも見えた。
 その通路を一人の少年が歩いていた。
騎士団の管理下にあるその神殿は、昼間こそ一般に開放されてはいるが、それでも厳重な警備がなされ、夜ともなればそう簡単には入る事が出来ない。
だがその少年はまるで散歩でもするかのような足取りで歩を進めていく。
 やがて、深奥の祭壇の間までやってくると、少年は警護の騎士たちに声をかけた。
「やあ、お疲れ様!差し入れもってきたぜ。特製ドリンク」
そう言って少年は2人の騎士に角杯を差し出し、腰にぶら下げていた小瓶をとりだした。
「ああ、すまないな。」
 2人の騎士は、注がれた液体を何の疑いもなく飲み干した。
その途端、騎士たちの世界が突然色を変える。
何事か、と思う間もなく。体は痺れ、感覚というものがなくなっていく。
「な!?…まさ、か、お前…!?」
 冷たい石の床へとくずおれながら、騎士は少年を驚愕の表情でみつめる。
少年は無表情で騎士を見下ろすと、祭壇に祭られていた一振りの剣に手をかけた。
「こいつはいただいていくよ」
「や…めろ!自分が、何を、しているか、わかってるのか?」
 体の痺れからか、かすれて途切れ途切れになりながら騎士が問う。
「わかってるさ。国の宝、騎士団の象徴。それを今、俺が盗み出すんだ」
「正気か!?…くっ!」
『ピ――――――ッ!』
 鋭い笛の音が辺りに響く。
騎士が渾身の力を振り絞って呼び笛を吹いたのだ。
痺れ薬を飲まされた状態で呼び笛を吹くなど常人では考えられない行動だが、そこはさすが訓練された騎士といったところだろう。
「しまった!?」
 少年は慌てて剣を掴む。
少し相手を侮りすぎていた。だが、後悔してももう遅い。
自分がここを抜け出すよりも先に、呼び笛を聞いた騎士たちが駆けつけてきてしまうだろう。
(つかまるわけには、いかないのに…!)
 少年は、覚悟を決めて手にした剣を、抜いた―――――。


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