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 鈴の音に反応して全員の視線が部屋の入り口に集中する。
「先客がいるようだとは思いましたが…まさかあなたとはね」
 涼やかな声と共に魔術師の部屋に姿を現したのは、一人の青年だった。
樹々の葉よりも濃い緑をした長めの髪、海を思い出させるような青い瞳。
ただ街を歩くだけでも目を引いてしまうような美形だ。
 青年はコツコツと靴音を響かせながら、ゆっくりとアリューズたちに近づいてきた。
その物腰はあくまで涼やかで、この場には場違いな鈴の音もこの青年にはよく似合っている。
 だが、外見や物腰とは裏腹に、彼の持つ威圧感は相当なものだった。
(なんだか、とても悲しそうな瞳をした人…)
 戦士としての訓練を受けたわけではなく、威圧感など感じることの出来ないフローラだけは、ただそう感じていた。
「まさか、あんた…ルードヴィヒか!?」
 アリューズが声を上げる。
ルードヴィヒと呼ばれた青年は、かすかに笑うと言った。
「覚えていただけていたとは光栄ですね。私の事など知ってすらいないかと思っていましたよ」
「知ってるさ。他のヤツの名前はともかくあんたの名前はね」
「それはどうも、ありがとうございます」
 苦笑して言うアリューズに、穏やかにルードヴィヒが答える。
「ずいぶんと素敵な人だけど、あなたの知り合い?」
 そんな二人の間に入りながらおどけた口調でリーシャがアリューズに問いかけた。
 だが、口調や表情こそおどけているものの、体はすでに臨戦態勢に入っているようだ。
構えてこそいないが、常に油断なくルードヴィヒの様子を伺っている。
彼の放つ威圧感から只者ではないと感じ取っているのだろう。
「彼はルードヴィヒ。ウォルヴィスの騎士だ」
 アリューズもまた、ルードヴィヒから意識をそらさないままに答えた。
 ルードヴィヒは騎士でありながら剣の苦手な優男と騎士団では評判だったが、偶然彼とすれ違った時に感じた気配、隙のない動作からその評判は嘘だと感じ、以来アリューズは彼に一目置いていたのだった。
「…今度の追手はあんたなのか?」
 警戒しながら問うアリューズ。
もし彼が追っ手なら、今までとは違う。
本気の戦いを覚悟しなければならないかもしれない。
 だが、そんなアリューズたちをよそに、ルードヴィヒは、ふ、と微かに笑って見せた。
それとともに先ほどまでの威圧感が消えていく。
「私は追手ではありませんよ。むしろ私のほうも騎士団に追われる身なのでね」
「…あんたが?」
「ええ、まぁ、色々ありましてね。今回は、この館に住む魔術師を倒すという依頼を受けてきただけですよ。まさかあなたがいるとは思いませんでした」
「その魔術師なら死んだよ。ついさっきね」
「そうみたいっすね。少し前から見せてもらってました」
 ルードヴィヒの背後から、別の声が響く。
現われたのは、緑がかった金髪の少年だった。年のころは16,7といったところだろうか。
彼は愛嬌のある笑みを浮かべながらこちらにやってきた。
「彼は私の依頼人です」
 怪訝そうな顔をするアリューズに、ルードヴィヒが説明する。
「どもども〜オイラはアルト。旅の商人です。以降お見知りおきを♪」
 アルトは満面の笑みを浮かべて自己紹介した。揉み手でもしそうなほどの勢いだ。
「あ、ああ、よろしく…」
 気の抜けた調子でアリューズが答える。
 なんで商人が魔術師討伐の依頼なんかするんだ?とつっこみたかったが、アルトの笑みになんとなく毒気を抜かれてしまった。
「で、いきなりなんすけど、あの剣、オイラに売ってくれませんかね?」
「はぁ?!」
 アリューズは声を上げた。
あの剣、といってアルトが指差しているのは、間違いなくレティの持っている太陽の聖剣だったからだ。
「アレだけの剣ならいくら出しても買うって人がいますって!間違いなく大儲けですよ♪どうです?」
「悪いけど、あの剣だけは絶対に売れない」
 アリューズは即答した。
そこには断固とした拒絶の響きがあり、さすがのアルトも一瞬沈黙する。
 そんなアルトにのんびりとルードヴィヒが声をかけた。
「アルトさん、依頼の件なんですが…」
「え?…あぁ。魔術師はもう死んでたわけだし、悪いけど経費のみで依頼料はナシってことで…」
 すまなさそうに頭をかくアルトに、ルードヴィヒはゆっくりと首を横に振った。
「そのことなら別にいいんですよ。私は別にお金のためにあなたの依頼を受けたわけじゃない」
「えっと、じゃあ…?」
「私に新たな依頼をしませんか。
…アリューズから太陽の聖剣を奪え、というね」
「!?」
 予想外の発言に、その場にいた誰もが凍りついた。
そんな中、ただルードヴィヒだけが穏やかな笑みを浮かべていた…。




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☆あとがき☆
はい、『彼』ことルードヴィヒさんの登場です(笑)。
自分のキャラじゃないだけに、外伝での彼と性格とか口調違うかも(滝汗)
それにかなり昔のことなのでうろ覚えですが、確か秋桜さんはルードヴィヒさんのその後はかなり悲しく暗いものだって言ってた気がするので、秋桜さんの意図と違った結果になっちゃいそうです(汗)
ほら、基本的に私ハッピーエンド好きですし(笑)
まぁ一応使ってよいと許可は取っていますのでご勘弁を〜(汗。
もっとも秋桜さんはここ読まないだろうから苦情は来ないでしょう♪(開き直り(笑))
けど今回レティが全く出てないからさきちゃんのほうから苦情が来たりして?(笑)  

2003/05/12