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『キィン!!』
 アリューズが繰り出した一撃は、だがしかしキメラの外皮にあっさりとはじかれた。
「ッ!」
 痺れかけ、思わず剣から手を離しそうになるのを何とか食い止める。
「……るは煉獄の炎、かの愚かなる者に灼熱の粛清を与えたまえ…」
「!!」
 魔術師の詠唱を聞き取って、アリューズはとっさに横へ飛び退る。
と、同時に魔術師の呪文は完成し、アリューズがいた場所を灼熱の火炎球が通り過ぎる。
火炎球はキメラに当たり、焦げたキメラが異臭を放つ。
「おいおい、味方のキメラを焦がしてどうする、炎使い?」
 キメラたちの攻撃をかわしながらアリューズが魔術師に皮肉を飛ばす。
「何、このぐらいでは倒れないし、代わりはいくらでもいるのでね。君こそ剣も効かずにどう戦う気です?」
 キメラたちの後方、安全な位置で魔術師が余裕の表情を浮かべる。
「剣が効かない?この剣でも十分戦えるさ」
 アリューズは軽く答えると再び近くのキメラに斬りかかった。
キメラの外皮に当たった瞬間剣はあっさりと中ほどから折れ剣先があらぬ方向へ飛んでいく。
 だがアリューズはそれには構わず折れた剣でなおも斬撃を繰り出し続けた。神速の斬撃は一陣の閃光となってキメラを襲う。
「…ハァッ!!」
 そして裂ぱくの気合とともに浴びせた一太刀は、キメラの外皮を砕き内部をあらわにしていた。青黒い体液が傷口から流れ出しキメラが苦悶の叫びを上げる。
「何!?」
「どうだ?ナマクラ刀にご自慢のキメラを傷つけられた気分は?」
「…ふはは!なるほど、武器に”気”を込めての一点集中攻撃ですか!君は良い実験体になりそうだよ!こちらも少しは本気を見せなくてはな」
 そういうと魔術師は再び詠唱を始める。
「また炎の魔法か?味方を巻き込むだけだ、やめとけよ」
「違う、そいつは…!」
 後方でリーシャとともにフローラを守りながら戦っていたレティが詠唱を聞きつけて声を上げる。
魔術師の放った魔法はキメラたちを包み込み、外皮がほのかに黄色に輝き始める。
「硬質化の魔法をかけた。これでもその剣で戦えるかな?」
「硬質化の魔法、だと!?確かそれは土属性のはず…あんた魔導師だったのか!」
 アリューズが声を上げる。
普通の魔術師は1種の属性の魔法しか使えない。複数の属性の魔法を使えるのは素質を持ち、厳しい修行を積んだ一握りの者たちだけだ。そういったものたちのことを普通の魔術師と区別し魔導師と呼ぶ。
「私は自分が炎使いなどとは一言も言っていませんよ?まぁ魔術師だと思われていた方が油断してくれるので普段は炎しか使いませんがね」
 余裕の表情を崩さない魔術師…いや、魔導師。
外皮を硬質化されたキメラたちはさらにじりじりと包囲を狭めてくる。
一度に攻撃させないのは勝てるという余裕とアリューズたちを実験体としてできるだけ傷つけないよう倒そうというつもりからだろう。
(このままでもキメラを傷つけることはたやすい。…でも時間がかかるし何より数が多い。リーシャの怪力でもキメラにはダメージを与えてるみたいだけど…フローラを守りながらじゃつらいだろうな。…仕方ない)
 アリューズは一瞬の逡巡の後、折れた剣を捨てた。
「ふ。とうとう諦めましたか」
「…レティ、力を借りる。構わないか?」
 魔導師の言葉を無視し、アリューズは静かにレティに問う。
「こんな時まで止めるつもりはない。おかしな遠慮はするな」
「サンキュ」
 そういうとアリューズは腰に下げていた剣の留め金を外す。
「おや?その剣は飾りなのかと思っていましたが…秘密兵器というわけですか。もっとも並の剣では結果は同じだと思いますがね」
「…あんまり使いたくなかったんだけどな」
 ゆっくりと鞘から剣を抜きながらアリューズがため息をつく。
中央部に細かく精巧な彫刻をされた刀身が姿を現す。
見ているだけでも切れてしまいそうなほどの雰囲気を持ったその剣は、白銀の光に包まれていた。
 そしてアリューズは包囲を狭めてきていた周囲のキメラたちに剣を一閃させた。剣の具合を確かめるかのようなほんの軽い振り。
 だがしかし、次の瞬間キメラたちは灰塵と帰していた。
「な、馬鹿な?!」
(馬鹿な、馬鹿な!?私のキメラが、こんな簡単に!?
いくら魔法の剣でも一撃で塵になどできるものなのか?!)
 内心の動揺を抑えつつ、魔導師は残りのキメラにも一斉にアリューズ攻撃の指示を出し、自らも魔法の詠唱を始めた。
 自らがもてる短呪系最強の攻撃魔法。
キメラが足止めしているうちにこの詠唱を完成させ、キメラもろとも葬り去る。大量のキメラを失うのは惜しいが、あの男は…いや、あの剣は全力で倒さなければ危険だ!
詠唱を続ける中、まるで紙でも切るかのようにアリューズがキメラを屠っていく。
焦りはつのるが今はただ詠唱を急ぐしかない。
 そしてキメラが最後の1匹になったとき、詠唱は完成した。
アリューズはキメラに斬撃を繰り出しかけた直後。避けられるタイミングではない。
(勝った…!!)
 魔導師は勝利を確信しながらマジックワンドを突き出し、最後の”力ある言葉”を叫ぶ。
一瞬にして風が一点に収束して鋭き刃となり、アリューズに襲い掛かかる!
『バシュウウ!!』
 風がはじける轟音が館を振るわせる。
魔導師は笑みを浮かべながら杖をおろした。




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☆あとがき☆
 戦闘シーンって、こんなで良いのでしょうか…?(汗)
なんか結構おしゃべりとかしててあんまり緊迫感がないような?
一応しゃべってる間も避けたりとかしてるということで(笑)。
そしてアリューズ君が一人でつっこんでっちゃったのでリーシャは地味に後方でレティとフローラを守りながら戦ってます(笑)戦いの描写はないですが(笑)
に、してもやっと剣を抜けましたよ(笑)思えばタイトルに太陽の聖剣とあるのに始まってから抜くまでに半年かかってますね(笑)って、もう半年経ったんだ。早いものですね(しみじみ)


2003/01/25