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「なんだって一介の魔術師の館にこんなに兵士がいるわけ!?」
 リーシャは最後の兵士を切り捨てながらつぶやいた。
アリューズはリーシャが剣を振るうところをはじめて見たが、大剣を自分の腕のように軽々と使いこなす姿は意外にも美しく、また頼もしくもあった。
「しかもこいつらどう考えても正規の訓練を受けてる。ただの傭兵じゃない」
 剣についた血をぬぐいながらアリューズがそれに答える。
ただ、アリューズは自分の剣は抜かず、最初に倒した兵士から奪った剣を使っていた。
「それに魔術師が研究を続けていられるだけの資金源はどこにあるの?実験体をお金で買うこともあるわけでしょ?」
「はい…私は、買われてきたようなものですから…」
 リーシャの問いにフローラが答える。
「なんとなく想像はつくが、な」
 ポツリとつぶやくレティに、アリューズがいぶかしげな表情で問う。
「なんだよ、それ。どういうことなんだ?」
「…お前もこの気配、感じているんだろう?」
「!!なるほど、そういうことか…」
「二人で納得しないで。どういうことよ?」
「この先に行けば分るさ。とにかく魔術師のやつに会いに行こう。」


「ここ、だろうな…」
 館の中、ひときわ大きな扉の前で、アリューズたちは立ちどまった。
「はい、この先に魔術師の私室と私がいた実験室があるはずです。ずっと実験室に入れられていたので他の部屋のことは分りませんが、ここは逃げる時に通りましたから…」
「よし、じゃあ行くぞ。この先は何があるか分らないからな。俺とリーシャが先頭で入る。レティ、フローラのことは頼むよ」
「分っている」
「よし、じゃあ開けるぞ」
 そう言ってアリューズが扉に手をかける。
かなりの重量を覚悟していたのだが、扉は思ったよりも軽く、すっと音もなしに開いた。
 入り口の正面、まるで謁見の間のように広い部屋の向こう側に執務机があった。
そしてそこには男が一人座っていた。
「ようこそ、お客人。それから…『おかえり』、フローラ」
 男は机にひじを突きながら、目を細めて笑った。
短めの黒髪に怪しい金の瞳。座っているので服装は良く分らないが濃い緑色のマントを羽織っているようだ。
「お客人とはよく言ったものね。館の中で戦闘があったこと、気づいてないわけじゃないでしょう?それに…『おかえり』は適切じゃないわね。フローラの帰る場所はここじゃないんだから」
 あくまで穏やかにリーシャが切り返す。
口調だけは穏やかだが、敵意は隠そうともしていなかった。
「いやいや。フローラをここまで連れ帰ってくれたのですからやはり大事なお客人ですよ。それに兵士が役に立たないということを証明してくれたのですから本当に感謝しています」
 その敵意に気づいているのかいないのか、魔術師はいたってにこやかに答える。
「ふざけるなよ…フローラの居場所はここじゃないって言ってるだろう!俺たちがここに来たのはフローラを元に戻す方法をお前に聞くためだ!」
「戻す方法?そんなものはありませんよ」
 激昂するアリューズに、魔術師はさも当然、といった風に答えた。
「不老不死の研究は手探り状態で進めてきたもの。戻す方法まで考えてはいられません。それに、私自身フローラがいったい何の要因でその力を身につけたのか把握していないのですよ」
「…………」
 その言葉にフローラの表情が沈む。
だがある程度は覚悟していたのだろう、取り乱すようなことはなかった。
「それに彼女の居場所がここではないといいましたね?彼女のような力を持つものがここ以外のいったいどこで暮らせるというのですか?『人ならざるもの』である彼女が」
 あくまで余裕の笑みを浮かべたまま魔術師が問いかける。
『人ならざるもの』という言葉にフローラとリーシャの表情が沈む。
レティは相変わらずの無表情だ。
その中で一人アリューズだけが、まっすぐに魔術師を見据えていた。
「人かどうかなんて問題じゃない。彼女の居場所は、彼女が決める!!
お前が戻せないなら他の方法を探すまでだ。
だが…お前だけは許してはおけない。
お前も戦う準備はできてるんだろう?出せよ、やつらを…!」
「ほぅ、気づいていましたか」
「館に入ったときから異様な気配がプンプンしてたよ。それに館にあれだけの兵士がいた理由、お前が研究を続けられる理由。すべては一つにつながってる」
「ふ。そこまで分っているなら話は早い。…では始めましょう」
 魔術師はそういってゆっくりと椅子から立ち上がると指をぱちんと鳴らした。
それを合図にして奥の扉から数々の異形の魔物が現れた。
「これは…そうか、ようやく私にもわかったわ。あなたは不老不死の研究の片手間に、実験体たちを合成獣(キメラ)にして売っていたのね。それも、かなり身分の高いものたちに」
 それこそが魔術師は潤沢な研究資金を確保することができ、訓練を受けた兵士を護衛につけることができた理由だった。その兵士たちを倒したアリューズたちを合成獣で倒せばさらに需要は増え、売値は跳ね上がることだろう。
 だからこそ、魔術師は兵士たちがやられているのを知りながらあえて手出しをしてこなかったのだ。
「大丈夫、あなた方を殺しはしませんよ。あなた方のような優れた冒険者なら実験体としては申し分ないですからね。倒したあとは研究に役立って…」
「ごたくはもう沢山だ。お前たちみんな、俺が切り捨てる…!!」
 魔術師の言葉をさえぎって、アリューズが吼える。
そして剣を構えると、合成獣の群れに向かって駆け出した――――。




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☆あとがき☆
ええと。結構間があいちゃいましたね(汗)
大っ嫌いな論文と格闘してたもので(汗)
評価は駄目駄目っぽいですが、とりあえずは終わったので更新です。
が。話は全然進んでおりません(爆)。
無駄が多いんだよなぁ、私の小説(わかってるならなおせよ)。
あと、間が開き過ぎて自分が何を書きたかったのかわからなくなってます(おぃ) このあとどうする気だったんだっけ?(汗)
また更新遅くなっちゃうかも…(汗)
プレー途中のゲームがたまってるって言うのが一番の要因だったりしますが(殴!!)
まぁそんなに続き期待してる人はいないと思うけどね(苦笑)
気長に待ってくださいです。

2003/01/16