13

「ありがとう」
 アリューズに対してフローラが深々と頭を下げる。
「待つんだ、フローラは…!」
 バウルが慌てる。
だがアリューズは、ニッコリと笑ってこう言った。
「勘違いしないでくれ。俺はフローラを殺すことについてわかったといったんじゃない」
「??」
「俺たちがこれからどうすべきか、それがわかったんだ」
「どうすべきか…ですか?」
 フローラが首をかしげる。
「ああ。俺たちはこの森が危険なのかどうか調査するように言われた。だが、君は危険じゃない。危険というならその魔術師の方だ。だから、その魔術師の居場所を教えてくれないか。そんな男、放っては置けない。」
「無茶です!あの魔術師は相当な使い手。かなうはずが…」
「悪いけど、一応俺たちも腕に自信はあるつもりだよ。な、レティ?」
 同意を求めるアリューズにレティは軽くうなずいた。
「わかりました…場所はお教えします。でも、その前に私を!私自身にはもちろん人を襲う意思はありません。でも、私は自分の意志とは関わりなく命を『吸って』しまう…。十分に、危険な存在です。私が人でないことに変わりはないのです…」
「…人でなければ、生きていてはいけないの?」
 不意に、今まで何故か沈黙を守っていたリーシャが口を開いた。
「え…?」
 予想外の問いにフローラはきょとんとした顔をする。
「人以外のものは、生きていてはいけない?人は人以外のものとは暮らせないの?」
 わきあがる感情を必死で抑えているような、押し殺した声でリーシャが問う。それはフローラに聞いているというよりは自問しているかのように感じられた。
「…リーシャ?」
 心配げにアリューズがリーシャの顔を覗き込む。
まだそんなに長い期間過ごしたわけではないが、こんなリーシャを見るのは初めてだった。
 だが、リーシャはそんなアリューズが目に入っていないのか、ただフローラの目だけをまっすぐみつめて言った。
「…あなたが本当に死にたいのなら止めない。だけど、そうじゃないでしょう?」
「それは…」
 フローラがつらそうにうつむく。
そんなフローラにアリューズが優しく声をかけた。
「その魔術師なら君を元の体に戻す方法を知っているかもしれないだろ?まだ望みはあるよ」
「戻る?元の体に?そんな、ことが…?」
 長い実験体としての生活に慣れた彼女にとって、呪われた体を元に戻すことが出来る可能性など思いつきもしなかったのだろう。フローラは目を見開いた。
「可能性、だけどね。本当に戻れるかどうかは俺にはわからない。でもそれを試す前に死ぬことはないだろ?」
「でも…」
 それでもなおもためらうフローラに、再びリーシャが声をかけた。
「あなたが”心”を持つ限り、私はあなたを見捨てない。あなたが本当はどうしたいのか、今はただ、それだけが聞きたいの」
「私…私は…。私は、できることなら元の体に戻りたい。そして、もっともっと生きていたいです…」
 フローラは、胸のうちを全て吐き出すかのようにそう言った。
そんなフローラにリーシャは少しだけ笑顔を見せた。
「OK。なら決まりね。出発は明日。案内は頼むわね?」
「…はい!」
 フローラも、ほんの少しだけ笑顔を見せてうなずいた。
「じゃあ、私ちょっと散歩してくるわ」
 そう言っておもむろにリーシャは小屋から出て行こうとする。
そんなリーシャにフローラは慌てて声をかけた。
「…ありがとう、リーシャさん」
 お礼を言われてリーシャは戸口を開きかけた体勢のまま、自嘲気味に笑って振り返った。
「まだ戻れるって決まったわけじゃないし、お礼を言われることじゃないわ。それに…」
「…それに?」
「自分のためでも、あるから。私は知りたいの。私の中に流れる血が間違いだったのかどうか」
 再び皆に背を向け、まっすぐ戸口の外ををみつめながらリーシャは言った。
そしてそのまま外へと出て行った。
「…え、散歩って…?今まで散々歩いてきただろ…?」
 わけがわからずぽかんと口を開けるアリューズ。
そんなアリューズにレティは一言、「馬鹿」とだけ言った。
「…お前は、わかってるのか?」
「一人になりたいからに決まっているだろう」
「1人に…?確かにちょっと様子おかしかったけど…。さっきの言葉と関係あるのか?俺にはどう言う事かよくわからなかったんだけど…」
 問いかけるアリューズ。
レティは、彼女にしては珍しく、少しだけ迷ったあと、口を開いた。
「リーシャは…彼女は恐らく…『半精霊』だ…」




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☆あとがき☆
あんまり間、あかなかったですよね…?(汗)
前回すぐ更新するようなこと言ったのに遅くなったらいけないですし(汗)
でも結構詰まっちゃいました(汗)
次の回の方が書きやすくて途中でそっちを先に書いてたり。
そのせいか一挙2話掲載です♪(殴!)
リーシャが散歩にいっちゃったのはフローラの言葉で少し昔を思い出しちゃったからです。まぁその辺は次の回で♪(殴)  

2002/11/06