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 翌日。
準備を終えたアリューズたちは森の中を歩いていた。
目指すは、森の奥の小屋。
変わり者の狩人が、村に住まずに森の中で一人暮らしているのだという。
魔物がいるかもしれないという連絡はすでに行っているのにも関わらず、彼はいまだ一人森の中にいるのだそうだ。
 あれから1週間。
さすがに魔物を怖れて森に入るものはおらず、いまだ無事でいるのかどうかもわからない。
彼の無事を確認するのも仕事の一つだった。
「に、しても…なんだってこんな森の奥で暮らしてんだよ…」
森の中を進みながらアリューズがため息混じりにこぼす。
「まったくだ。訊ねていく方の身にもなってほしいものだな」
 めずらしくレティも同意する。
いい加減疲れてきたらしい。息が上がっているようだ。
「二人とも何情けないこと言ってるの?バウルさんの無事を確かめるのは仕事のほんの一部なのよ?魔物がこの森に『いない』事を確認するためにはそれこそ森じゅう調べまわらなきゃならないんだから」
「はぁ〜。それだったらさっさと出てきてくれたほうが嬉しいな。倒せばそれで終わりなんだから」
「それはそうだけど、相手は未知の魔物よ?気は抜かないでね」
「わかってるって」
 いいながらアリューズは、レティの荷物に手をかける。
「?」
「持ってやるよ。疲れてるだろ?」
「…すまない」
「どうせ持たなきゃ『気が利かない』とか文句言われるのは目に見えてるからな。…って、痛ッ!」
 アリューズはレティに杖で叩かれ、頭を抱えた。
「お前はどうしてそういつも一言多いんだ?」
「そっちこそどうしてそう手が早いんだよ…」
 ため息をつきながらも結局そのままレティの荷物を持つアリューズ。
お人よしはどこまで行っても直らないらしい。
 そんなやりとりをしながらも一向はさらに奥へと進み、やがて一部だけ森の木々がない開けた空間へと出た。
「あ、あの小屋かな?」
「そうね。こんな森の中に住んでいる人なんて他にいないでしょうし。とにかく行ってみま…!?」
 言いかけてリーシャが絶句する。
小屋の中から木桶を持った少女が出てきたのだ。
その容貌は、村で聞いた魔物の少女のものと一致する。
「まさか…!?」
 アリューズが駆け出す。
「え、ちょ!?…ああ、もう!」
 一言愚痴ってリーシャもその後を追った。
あの少女が魔物だとしても、いきなり駆け出してどうするのか。
まずは動向を観察すべきではないのか。
そう言ってやりたいが、すでに駆け出してしまったのものを呼び止めればそれこそ相手に存在を誇示しているようなものだ。
どちらにしろもう観察などできそうもない。
「!?」
 少女は駆け寄ってくるアリューズたちを見て動きを止めた。
驚きに一瞬身がすくんでしまったらしい。
「君は誰だ!?この小屋にはバウルさんしかいないはず…。バウルさんをどうした!?」
 いつでも剣を抜けるよう構えながらアリューズが少女に問い掛ける。
「わ、私は…」
「待ちなさい。その物騒なものを抜く気ではないだろうな?」
 おずおずと少女が口を開きかけたとき、小屋から一人の男が姿をあらわした。そしてアリューズと少女の間に割ってはいる。
「バウルは、私だ。その子は何もしていない」
「あなたが、バウルさん…?でも、その子は?この森に少女の姿をした魔物が逃げ込んだことは知らせがきているはず。もし、その子が逃げてきたのなら、魔物の可能性もあるんですよ?」
 追いついたリーシャがバウルに向かって問う。
この小屋にバウルのほかに人がいるとは聞いていない。そして、目の前にいる少女は明らかに村で聞いてきた、少女の姿をした魔物の特徴とピッタリと符合する。
どう考えても目の前の少女こそがその魔物だとしか思えなかった。
バウルは見た目に騙されているのかもしれない。
「その話は聞いている。確かにこの子はそのころここへとやってきた。だが、魔物などではない」
「でも…!」
 納得できず、さらに言い募ろうとする。
そこへ、今までバウルの後ろにいた少女が一歩前へと進み出て、言った。
「もういいんです、バウルさん。私はこれ以上逃げられるとは思っていません。それにもう、逃げる気力もない…。事情は全てお話します。その後に…」
「その後に?」
 しばし口ごもった少女に、アリューズが先を促す。
少女はそれでも少し迷った後、しっかりとアリューズの目を見て、言った。
「その後に……私を殺してください」




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☆あとがき☆
前々回のあとがきで仲間増やそうかなとか言っていましたが、やっぱりやめるかも(ぇ)。人数が無駄に増えるとエピソードが分散しちゃうし…。なんか書いててアリューズ、レティ、リーシャの3人で一組がしっくりくるな〜って感じがしてきちゃいました(笑)。後半の方で一人男性キャラは増やそうとか思ってますが。話的にこの3人であることにちょっと意味もあるんで…。まぁこのエピソード内でそれは明かします。で、明かした時点で設定のページに少し追加します。ちなみにこのエピソードは20(←TOPページでの番号)までで一区切りの予定。最初のは10まででしたしね。10個づつで区切っていこうかなとか思ってます。ただ量的なもの考えて書いてる訳じゃないんでオーバーする可能性もありですが…(汗)  

2002/10/15