「はぁ、はぁ、はぁ…」
 少女は逃げていた。
深い森の中をただひたすらに。
 追手の気配はもう背後にしなくなったが、それでも逃げつづけた。
時折足がもつれそうになる。
少女は森になど慣れてはいないし、彼女の服装は粗末なほどの普段着で、森に入るのに適しているとはいえなかったから。ましてやここは狩人でもなければ滅多に人の入らない奥深い森の中だ。
 顔や腕には擦り傷が出来、息はもう切れ切れだった。今すぐ座り込んでしまってもおかしくはない。
 だが、それでも彼女は走りつづけた。
『逃げたい…!』
 今心を支配しているのはその思いだけ。
 追手からだけじゃない。
すべての人間から、自分から、そして自分の運命からも逃げ出してしまいたかった。
 がむしゃらに逃げつづけ、どこをどう逃げたかも定かでなくなったころ、不意に視界が開けた。
「え…!?」
 開けた視界の先、一部分だけ森の木々がないその空間に、小屋があった。
「いけない…!こんなところにも、人が…!?」
 少女は踵を返して戻ろうとする。
が、ふらついた足が木の根に引っかかり、そのまま倒れてしまった。
倒れる時に軽く木に頭をぶつけ、すでに限界をとっくに超えていた少女はそのまま気を失ってしまった。


 しばらくして、少女は目を覚ました。
うっすらと目を開けるが、焦点は定まらない。
ぼんやりとした意識の中、こんなことを思う。
(さっきの人、大丈夫かな…?)
 村なんか立ち寄らなければ良かった。
自分はもう人と関わってはいけないのだ。なのに、自分が弱かったためにあんなことになってしまった。もう私は一人で生きていかなければいけないのに。
そう決意しながらも、涙はにじむ。少女は涙も悲しみも覆い隠してしまいたいかのように毛布を深くかぶった。
(…毛布?)
 そこではじめて少女は気づく。自分がベッドに寝かされていることに。
少女は慌てて跳ね起きた。木の壁が目に入る。どうやらどこかの小屋の中のようだ。
「小屋…?でもどうして…?」
 さらに視線をめぐらせて、ベッドのすぐ側の床に男が倒れているのを見つけた。
「!?まさか…死んでるの…?」
 少女は顔面蒼白になった。
死んでる…?まさか、私のせいで…?
心臓をわしづかみにされたかのように動けないでいる少女の目の前で、男が微かに動いた。
「う…。むう?寝てしまったのか…」
 身を起こしながら寝ぼけ眼をこする。
そして、少女の視線に気づいた。
「おお!気がついたのか。良かった」
「生きてる…良かった…」
 少女はほっと胸をなでおろす。
そんな少女を見て男は首をかしげた。
「?おかしなこというのだな。倒れてたのはお前さんのほうだろう?」
「あなたが、私を?」
 少女は男のいう事などまるで無視して真剣な顔で問う。
「そうだ。森で倒れていたのを見つけたのでな。この小屋の近くだったからすぐ運べて良かった」
「…体、大丈夫ですか?」
「だから、どうしてお前さんが…」
「いいから答えてください!」
 そのあまりの真剣さに飲まれて男はしどろもどろに答え始める。
「なんだか少し体はだるいが…別になんともない」
「良かった…。私が意識を失っていたからかしら…?」
「なぁ、お前さん、ほんとに大丈夫なのか?混乱してるんじゃないのか?」
「いえ、大丈夫です。助けていただいてありがとうございました。では、私はこれで失礼します」
「ちょっと待ちなさい!さっきまで意識を失ってたんだぞ?そんな子を『はいそうですか』と、行かせるわけにはいかないな。また倒れたらどうするんだ?」
「その時は、その時です」
「…ふう。何をそんなに頑なになっているのかはしらないが、命は粗末にするもんじゃないぞ。悪いことは言わない。2,3日休んでいきなさい」
 穏やかだが、強い意思を秘めた視線。
この人は、本当に私を心配してくれてるんだ…。
そう思ったら、強く拒絶できなくなってしまった。
やっぱり私は弱い。本当は、何を言われてもすぐに去らなければいけないのに。
少女は一つため息をつくと、ひたと男の顔を見つめた。
「…。わかりました。しばらくご厄介になります。でも、一つだけ約束してください」
「約束?」
「はい。何があっても絶対に私に触らないでください。例えまた私が倒れたとしても…」




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☆あとがき☆
かなり久々すぎる更新です。
このままだとそのうち消えるのも時間の問題?(笑)
あ〜と、これはアリューズたちとは関係ない人です。過去のシーンとかではないので間違えないでくださいね。しばらくストーリーの本筋からは外れるかも。RPGで言うなら途中のサブイベントですね(笑)。ここでまた仲間を増やそうかとも考え中。元の中学校のころ考えてたヤツでは最終的に6人くらいを考えてたんですよね。でもあんまり人数増やすと動かしにくくなるからな〜。どうしよう…。とりあえず男性キャラがもう一人くらいいてもいい気もします(笑)。隠しだし見てる人ってほとんどいないからキャラ募集しても意味ないしな〜。どうしましょう?(誰に聞いてる?(笑)

2002/09/07