「…どこへ?」
「………」
 ぽかんとした顔で聞き返すアリューズ。リーシャの額に一筋青い筋が浮かぶ。
「どこへって…さっきも言ったでしょ?逃げなきゃ。役人につかまりたいの?」
「あ、そうか!」
「ちょっとは頭を使え〜〜〜っ!!」
 叫ぶリーシャ。炸裂するボディブロー。
アリューズの体は見事に『くの字』に折れ曲がった。
「…見事だな」
 レティがしみじみと言いながら目を伏せる。
多少は、憐れに思っているらしい。
「って、こんなことやってる場合じゃないのよ!ほらほら、荷物もって。行くわよ!」
 いつの間にまとめておいたのか、3人の荷物が宿の前に置いてあった。
レティとリーシャはそれぞれ自分の荷物を背負う。そして出発しようと確認のためもう一度振り返る。
「…あら?」
 アリューズの荷物がそのままだった。リーシャはあたりを見回して見る。
…『くの字』が落ちていた。
アリューズはいまだ『くの字』のまま地面に倒れふしていたのだ。
「ほらほら、何やってるの?行くわよ!」
 そう言うとリーシャは右手にアリューズ、左手にアリューズの荷物をもってずるずると引きずり始める。
(こんの、馬鹿力〜ッ!!)
 アリューズは痛みに涙目になりながら、そっと心の中で叫ぶのだった…。


「なんだか君には色々迷惑かけちゃったな」
 町から離れ、街道脇の森へひとまず身を隠した後、アリューズはリーシャに言った。
(その分ひどい目にも会ったけどな)
 と心の中で付け加えながら。
「全くね。あのガルドとか言う男、絶対私も”盗賊”の仲間として報告するでしょうね。見事にお尋ね者だわ」
 真顔でうなずくリーシャ。
「う…。そ、そうか、すまない」
「冗談よ。あなたのせいじゃないわ。あそこで私が出て行かなくてもあなたはあの子を助けられたでしょうし」
「じゃあ、どうして?」
「…馬鹿」
 レティがそんなこともわからないのかと言った顔で口を挟む。
リーシャは、今度こそ本当に真顔になると先を続けた。
「…確かにあなたはあいつがあの子を傷つける前に倒すことが出来たでしょうね。でも…あの子は、目の前で…本当に目の前で人が死ぬのを見ることになる」
「あ…」
「至近距離から人の血をその身に浴びることになるのよ。それはきっと、あの子の心に傷を残すわ…」
「だったらやっぱり俺は君にお礼を言わなくちゃならない。考えなしに、ひどいことをしてしまうところだった」
「本当に、そう思う?」
「ああ」
「じゃあ、お礼の代わりにちょっとお願いしたいことがあるんだけど」
 そう言ってリーシャがニッコリと笑う。
元々美人のリーシャが満面の笑顔を浮かべたのだ。それはとても魅力的で、普通の男ならそれだけでリーシャに一目ぼれをしそうなほどなのだが…。
(なんか怖い…)
 アリューズは背中を走る悪寒に冷や汗を浮かべた。
「お、俺に出来ることなら」
 『出来ることなら』のところに微妙に力を入れてみた。
「簡単よ。パーティに入れて欲しいの」
「は?」
「ああ、あなたは冒険者じゃないんだっけ。要するに一緒に旅しましょうってこと」
「いや、それはわかるけど…」
「あなたたちといると面白そうだからね。伝説の太陽の聖剣なんて、早々お目にかかれるものでもないし。冒険者としては、かなり心惹かれるわ。と、いうわけでこれからよろしく!」
「…だ、そうだが?」
 レティが無表情でアリューズに視線を送る。
「いや、そう言われても俺たちの旅は一応目的のあるものだし…」
 アリューズは、一応抵抗してみた。
「ついていくから大丈夫よ。私今のところ何の依頼も入ってないからヒマだし」
 答えは速攻で返ってきた。どうあっても一緒に行くつもりらしい。
「冗談だろ…」
 アリューズは天を仰いだ。
いまでさえレティに頭が上がらないのに、この上もう一人増えるのか。
…俺、女難の相でも出てるかな?
中々に失礼なことを考えてみる。
『ぽかっ!』
 レティに杖で殴られた。
「今何かロクでもないことを考えただろう」
「何でわかるんだよ?」
「お前はすぐに顔に出る」
「……。それより、レティはいいのか?」
 アリューズは尋ねる。レティはいつもあまり人に関わりたがらないから。
「止めても無駄そうだからな。まぁ、しばらくは仕方ないだろう」
 いつものようにレティは肩をすくめて見せた。
アリューズはため息をついた。これは、俺も覚悟を決めるしかないか。
「わかった。今日から俺たちは仲間だ。よろしくな、リーシャ!」
 そう言ってアリューズは笑顔で右手を差し出したのだった…。




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☆あとがき☆

記念すべき10回目に私は一体何を書いてるんでしょう?
まぁ、アリューズくんはレティやリーシャに振り回されてる方が似合ってるよね♪(ひど!)
なんだかやっとリーシャのキャラがつかめてきた感じです。
その分レティの出番が減ってしまいましたが…彼女は重要キャラ&お気に入りキャラなのでこの後十分出番はあります。
べ、別になくてもいいとか言わないでくださいね(泣)
関係ないけどてっちゃんに捧げたSS、送ってからかなり後悔。あ、あんなのやっぱり人に捧げるんじゃなかった…(汗)。今すぐなかったことにしたいくらいです。てっちゃん困っただろうなぁ…。

2002/08/16