「レッター?それは、救い主という意味ではないのか?」
 リーンの言葉に訝しげに問う魔女…いや、レッター。
「そうさ。君の力は、きっと、みんなを救うことだって出来る」
「そうそう♪あたしも、リーンちゃんにさんせ〜〜い!レッターちゃんって、素敵な名前だと思うなっ♪」
 唐突に聞こえた場違いなほどに明るい声に、私はそちらに目を向けた。
見ればいつの間にか、部屋の入り口に一人の少女が立っていた。
「ミナーナ…ここ、王家の者以外は立ち入り禁止、トップシークレットだったりするんだけど?」
 苦笑を浮かべながらリーンが言う。
そう、彼女はミナーナという。いつもリーンと一緒にいる女性戦士だ。
王族でも貴族でもない彼女が王城に出入り出来ているのもリーンの友人という立場ゆえ、だ。とはいえさすがにこんな場所までは立ち入りを許されるはずがないのだが…。
 そんな私の疑問、そしてリーンの質問に、ミナーナはニッコリと笑ってこう答えた。
「そんなの決まってるじゃない!リーンちゃんの行くところ、あたしはいつでもどこでもフリーパスぅ〜!」
「…」
 一点の疑問もなにもないといった調子にがっくりと肩を落とすリーン。
…我が弟ながら、苦労するやつだな。
私はぽんと、優しく弟の肩を叩いてやった。
そんな私たちの様子など意に介さず、ミナーナはレッターの前に歩を進めると、その手を取った。
「よろしく、レッターちゃん。仲良くしようね♪あ…でも、リーンちゃんとは、程ほどにね?リーンちゃんはあたしのものだからvv」
「お前のもの…?リーンがお前の所有物という事か?そうか、こいつも道具だったのだな」
「うーん、ちょっと違うんだけど…まぁ似たようなものかな?」
 真面目な顔でうなずくレッターに、同意するミナーナ。
「全然似てないだろっ!!!いつ僕がミナーナのものになったんだよっ!」
「やだ、リーンちゃんたら照れちゃって♪」
「あのなぁっ…」
「おのれリーン、いつの間に、ミナーナと…そこに直れっ!!!!」
 反論しようとするリーンの声すらかき消して、今度は男の声が響いた。
見ればまたもや入り口に人影。
同じくリーンの友人にしてミナーナの幼馴染、ギスターだ。
あまりの事態に私はもう成り行きに任せるに決めた。
リーンをとりまく事態を傍観しながら「今度厳しく衛兵をしつけなおさなければいけないな」などとぼーっと考えてみる。
「ギスターまで…ここ、立ち入り禁止なんだけど?」
「ふん。ミナーナの行くところ、俺はいつでもどこでもフリーパスだ!」
 どこかで聞いたばかりの台詞を胸を張って言い切るギスター。
「…君の村、こんな思考の人ばっかりなのか…?」
 頭を抱える苦労人・弟リーンの肩を私は再びぽんと叩いてやった。
「まぁ元気を出せ。お前の苦労はわかっている」
 私の言葉にリーンは顔を上げるとじーんとした面持ちで見上げる。
「兄さん…」
「…まぁ、被害の届かないところで見守るだけだがな」
「兄さんっ!!!!」
 ぽつりと漏らした呟きを聞き逃さなかったリーンが抗議の声を上げる。
そんな私たち兄弟を他所に、ミナーナとギスターも言い争いをしていた。
「ちょっとギスター、あたしの台詞真似しないでよ!それになんであなたがあたしの行くところフリーパスなのよぉ!」
「真似なんかしてないぞ??それに、ミナーナも同じ台詞いったんなら俺だって…」
「あたしとリーンちゃんは両想いだからいいの!一方通行じゃストーカーなんだからねー!」
「…その言葉、そっくりそのまま君に返してあげたいよ…」
 ミナーナの叫びを聞きつけて、リーンがポツリと呟く。
が、今度はその呟きをギスターが聞きつけ怒りだす。
「こらリーン!ミナーナを侮辱するな!」
「だったら両想いだって認めろって言うのか!?」
「それは許せんが、ミナーナを侮辱することも許せん!!」
「だーーーっ!僕にどうしろっていうんだよーーー!!!」
「こらーーーリーンちゃんをいじめるなーーー!」
 そして始まる大騒ぎ。
とりあえず声が漏れないよう地下室の入り口だけは閉め、私は再び傍観に徹することとする。
…これが始まると、長いからな。
「…なんなんだ、一体…」
 声に振り向いてみれば、事態についていけないで、レッターが一人、呆然としていた。
「まぁ、いつものことだ。じき慣れる」
「慣れたくないぞ…」
 顔をしかめる彼女を見て、不覚にも吹き出してしまった。
「何が、おかしいんだ?」
「いや…」
 なんとか笑いをこらえて、否定する。
リーンの言うとおり。
こんなにも感情豊かな彼女が、道具だ、魔女だなどとどうして思えるだろう。
それなのに彼女自身は自分を無感情だと思っている、それがなんだか滑稽でおかしくて。
それとも…そういう風になったのは、かのシャルレィスのおかげ、なのだろうか。
「…そういえば、自己紹介がまだだったな。
私はキルス。リーンの兄でこのウォルヴィスの第一王子だ。よろしく頼む」
「…」
 私の言葉に、レッターが戸惑ったように沈黙する。
「…?聞こえ、なかったか?」
「いや、聞こえた。キルスだな。わかった」
 短く答え、再び喧騒に目を戻す。
…ああ、そうか。
リーンとミナーナの挨拶にも、そういえばレッターは答えていない。
まぁ、二人の場合はすぐあとに大騒ぎになってしまったということもあるのだろうが。
「よろしく」と。
そのたった一言にさえ、彼女は答える方法を知らないのだ。
例えシャルレィスが彼女とどれだけ交流をしていたとしても、出会ったときにしか使われないこの挨拶は、多く人と関わらねば身につくものではないのだろう。
「レッター」
 私は、もう一度声をかける。
普段あまり進んで他人とは関わらない私だが、何故か放っておけなくて。
「なんだ、キルス」
「よろしく、だ。私は王族だからな。挨拶には厳しく育てられた」
「…」
「よろしく、レッター」
「…ああ、よろしくな」
 ポツリと呟くような一言。
だがその声は、リーンたちの大騒ぎにもかかわらず、確かに私の耳に届き。
私は自然、笑顔になっていた。
私たちは黙ったまま、けれど決して気まずくはなく。
リーンたちの騒ぎが収まるのを二人ぼーーと待つのだった。




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☆あとがき☆
うわー久々の更新なのになんて能天気な回なんだ(笑)
ともさん、彼女が噂のリーン君のお相手、ミナーナです(笑)。
アリューズと違った意味で女性に苦労するんでしょうね、リーン君は。
一応彼のコンセプトはギャルゲの主人公(つまり何故かみんなにモテまくる(笑))ですから!(そんな(笑)
に、してもキルスが微妙にお茶目な人になってしまった…堅物って設定なのに。
困ったな…彼は明るくなっちゃ困るんだけど(ぇ)
話的にも全く進んでないしなー…ま、いっか(おぃ)
ちなみにこの外伝3、語りの人物がコロコロ変わります。
ちょっと混乱するかもしれませんが、一人称でいろんな場面を書くにはこの方が都合がいいので。
それでは〜!


2004/06/08