「ひぃぃぃぃ、”黒き魔女”だ〜〜!!」
 私の姿を見て多くの兵士が我先にと逃げ出していく。
私は蟻の群れのようなその集団に剣を一振りする。
閃光と共に衝撃波が吹き荒れ蟻たちを蹴散らす。
後に残ったのは私と、一握りの蟻たち、そして多くの残骸だけだった。
 生き残った蟻はそれでも這うようにして必死で逃げていく。
その姿はもはや蟻というよりはナメクジだ。
 再び剣を構えて、一振り。
もはや動くものは残っていなかった。
「戻るか…」
 私はその場に背を向け、本陣へと戻ることにした。


「戻ったか。首尾は?」
 天幕に戻ると、待ちかねたように王が私に問うた。
「言うまでもないだろう」
「そうか!さすがは”黒き魔女”!!これで奴らももう抵抗しようなどと言う気にはならんだろう。諸国を併合するのもそう遠くはないな!」
 私の報告に満面の笑顔を見せる王。
でっぷりと太った腹を揺らしながらしきりとあごひげをなぜてニヤついている。
「で、次は何をすればいいんだ?」
 今度は私のほうが問う。
時間の無駄はあまり好きではなかった。
「ん?いや、今は特にない。休んでよいぞ。そなたは大事な身だからな」
「わかった」
 絡み付くような視線で私を見ている王に私はひとことそう答えて、天幕を出ようとした。
 と、その時王の隣にいた将軍が制止の声を上げた。
「まて、”黒き魔女”」
「なんだ?」
「王に対してその口の聞き方はなんだ!?それに礼すらとらぬ。無礼であろう!」
「……」
 私は黙って将軍の顔を見る。
まったく人間というのは面倒くさい。
黙ったままの私に何を思ったか、青ざめながら将軍が慌てたように付け加える。
「あ、いや、別に責めているわけではないのだが…」
「…それは、命令なのか?」
「何?」
「礼をとれというのは命令なのかと聞いている」
「そ、そうだ。貴様自分の立場を忘れたか?」
 裏返った声で将軍が答える。
「…命令ならば、聞く。今度からは気をつけよう。
では私は戻…いや、失礼いたします」
 私はいつも王の周りの人間がしているように恭しく礼をとると天幕を後にした。
「ふ、ふう。脅かしおって。まぁ所詮は道具。怒ることなどないか」
 天幕を出る寸前将軍のそんな声が聞こえたが、特に気に留めることでもないのですぐに忘れることにする。
 そう、私は道具。
主の命に従い、その願いを実行する、それだけの存在。
他に何を思うことがあるというのか。
(おい、”黒き魔女”だぜ)
(あれが?俺初めて見るよ。美人だな〜!)
(はぁ!?)
(だってさ、色白いし長い黒髪も綺麗だし、緑色の瞳なんか吸い込まれそうで…)
(バ〜カ!確かに美人かもしれないけどアイツ、人間じゃない化け物だぜ!?今日も一人で敵の部隊を全滅させてきたって話だ)
(ひえ〜、ほんとかよ?おっかねぇ〜!!)
(でもまぁ王様は目をつけてるって噂も聞くぜ?物好きだよなぁ〜。
主の命令なら何でも聞くらしいから王様になら抵抗しないんだろうけどよ、あんな化け物を、なぁ?)
 自分の天幕へと向かう途中も、多くの兵たちが私に視線を向け、何事かささやいているのが聞こえたが気にはしない。
道具が意味もないことを気にしても仕方がない。
 天幕へ戻ると私はすぐに寝ることにした。
まだ夕方ではあるが、次の命のために体を休めておくに越したことはない。
床に就いて目を閉じると、私はすぐに深い眠りについた。


「…魔女様」
 夜。侍女の呼ぶ声で私は目を覚ました。
「なんだ?」
「王様がお呼びです。今すぐに王様の天幕へ来るように、と…」
「わかった」
 早速次の命が来たらしい。
体を休めておいて正解だったようだ。
すぐに支度を整えると、私は王の天幕へと向かった。




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☆あとがき☆
 えっと、これは外伝です。
でも続きます(笑)。一応過去話、かな?
アリューズたちの時代からはかなり前ですが。
ホントは本編に入れるつもりのエピソードだったんですが長くなりそうだし、大分後になってしまいそうなので。
こっちの更新はかなり遅めと思っておいてください。
本編のネタバレも含んでくる(バレバレ?)ので本編の方の進行状況にあわせて更新していきますから。
あとこっちは1人称で進めていこうかな?とか思ってます。
基本的に1人称の方が書きやすかったりするんですが、1人称だとその語ってるキャラ以外の視点が書きにくい、そのキャラの過去を隠しておきにくくなる、などという理由で本編は3人称なんです。

2003/02/21