列車の中。
四人座れる個室の様な席に、一人の少年が座っている。
その少年は読書をしていた。
薄暗いランプの光に映し出される、優しそうな顔の、眼鏡をした黒髪の青年。
白い法衣のようなマントを着ている。
夜。
人もまばら。
列車の中。
ガタンゴトンガタンゴトン。
列車は進んでいく。
別の車両から、若い女性がやってきた。
そんなことには気づかない、と言うように少年は本に没頭している。
「すいません!ここ、座っていい?」
大きな声で、女性は青年に話しかけた。
旅をしている女性なのだろう、格好で分かる。
「ええ。どうぞ。」
青年はようやく本から目を離し、女性を見てにこりと笑った。
「あら。ずいぶん優男ね。」
女性は少し驚いたような顔を見せる。
「?」
青年は首を傾けた。
「あなた・・・人間じゃないわね?」
女性が確かめるように問う。
「・・・・・よく分かりましたね。それで貴方は?」

・・・・ガタンゴトンガタンゴトン。
列車が荒野を通り抜ける。

ホワイト・ダーク
「白い闇」

女性が青年の向かい側にどかっと座った。
気づけば、彼女は荷物を持っていない。
「私はクラン。名前、聞いたことある?その筋じゃ有名だけど。で、あんたは?」
「私はアーウィングと言います。」
本をぱたんと閉じてカバンにしまいながら、彼・・・アーウィングは言った。
クランはアーウィングの顔をじ〜〜っと見た。
「・・・・・何か顔に付いていますか?」
アーウィングが顔に手を当てる。
「あなた、種族は?」
クランは全くアーウィングの質問に反応せずに言った。
「・・・・・吸血鬼(ヴァンパイア)ですよ、一応。」
何がなんだか分からない、と言う顔をしながらアーウィングが答えた。
「おお!よしっ、合格!!」
嬉しそうにクランが突然大声を出した。
「ハァ?」
アーウィングがすっとんきょうな声を上げる。
「ねえ、あなた、私を使い魔にして!いや、しろっ!!」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
は?
アーウィングが目を白黒させる。
「だから私を使い魔にしなさいって言うのよ!突然だけど!吸血鬼なんでしょ。血を吸えばそれで終わりじゃない。」
アーウィングはあまりのことに言葉を失った。
(私のことを見破ったから、協会の人間が私を抹殺に来たのかと思ったら・・・・突然なんだ?)
「何でですか?」
彼はその言葉を出すのがやっとだった。
「言ったでしょ、私はその筋じゃ有名なのよ。私は、『最強のゾンビ!』なのよっ!」
自慢げに、彼女は語った。
「・・・・・はぁ?」
さらに話が見えてこない。
「不死族(アンデット)の中で、最弱と言われる『ゾンビ』。けどね、私みたいに最強になっちゃえば
下手な吸血鬼にだって負けない、かなり強い個体になるのよ!
ほら、普通のゾンビって体腐ってたりするでしょ?けど、強くなって力を手に入れれば、この通り!」
確かに彼女は結構な美人の金髪の人間、に見える。
「・・・・それで?」
相変わらず話が見えてこない。
「それで私ってば、「超越種(人間を越えた物の呼称)見つけては戦い挑んでたのよ。ヒマだから。 でさあ、あんたの匂いがしたからこっち来たのよ。」
「・・・・で?」
まだ話が見えてこない。
「でさあ、最初は戦い挑もうと思ったけど、あんた、かなりの優男じゃない。毒気抜かれちゃった。 っていうかさ、顔気に入ったのよ!だからこの私があんたの使い魔になってやるっていってんのよっ!」
アーウィングは思った。
ああ、この人、我が道を行くキャラなんだな、と。
「嫌です♪」
「即答ッ!!?」
ズビシッ!
とりあえず突っ込みを入れるクラン。
アーウィングは分かっていた。
無駄だと。
「ンな事言われたって!ええい、もう無理矢理ついていったるっ!!」
・・・・・やっぱりこうなったか。
アーウィングは思った。





ガタンゴトン。ガタンゴトン。
まだ列車の中。
夜の荒野を、列車は走り続ける。
アーウィングの向かいの席に、クランは鼻歌なんか歌いながら座っている。
窓の向こうを見ていたクランが突然アーウィングをジロジロ見はじめた。
「・・・・?」
その後、クランがくんくんとアーウィングの匂いをかぎ始める。
「うひゃっ!」
アーウィングが後ずさろうと飛び退いて、座席の背もたれに背中をぶつける。
「いてててて・・・・」
顔を赤面させながらアーウィングが頭をかく。
そんなことはどうでもいいように、クランがアーウィングに話しかけた。
「ねえ、アーウィ?」
(勝手にあだ名まで付けられてるし・・・・)
アーウィングはそんなことを思いながらはいはい、と答えた。
「何でそんな白い服をきてんの?いままで吸血鬼なら、みんな黒いマントを羽織ってたわよ?
それに・・・・貴方からは、血の匂いが全く・・・いや、ほとんどしない。なんで?」
「・・・参りましたね。そんなことまで見通されちゃいましたか。」
ぽりぽり、とアーウィングは頭をかく。
「・・・私はどうやら『変』なんですよ。私はね、人間から血を吸いたくないんですよ。
そして、共存したい、と思うんです。だから、その道を探して旅してるんですよ。
変な吸血鬼でしょ?それにまず、私は吸血鬼の中で『最弱』だと思いますし。
だから、最強のゾンビさんは私と何かと一緒にいてもつまらないですよ?」
アーウィングは、悪びれずにっこりと笑っていった。
「良いじゃない、変人。この私がついていくって言ってあげてるんだから、普通じゃ生ぬるいわっ!」
自信満々、と言う顔でまたクランが言った。
(・・・・・何があってもこの人はついてくる気ですねえ・・・・)
アーウィングは半ばあきらめるように座席に寝ころんだ。
「目的地に着くのは明日です。今日はもう寝ましょう。」
「あ、それって私を認めてくれたって事?」
クランは嬉しそうに笑って言う。
どうでもいいことかも知れないが、笑っているクランの顔は本当に綺麗だ、と思う。
「ダメって言ってもついてくるのは貴方でしょう。お休みなさい。」
アーウィングは目を閉じた。
つられてクランも目を閉じる。
(この人、吸血鬼は普通は夜行性なのに・・・ホントに変ね。面白いじゃないの♪とりあえず、使い魔にして貰わなきゃ、ね。)
「お休みなさい♪寝てる間に逃げたら承知しないわよ!」
苦笑しながらアーウィングはランプの光を消した。



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