血。
血。
血。
目の前に広がる光景。
血と瓦礫のみの光景。
生き物の脈動は一つもない。
全ては瓦礫と肉と血。
その中、一人だけ立っている。
見たくない。
思い出したくない。
気持ち悪い。
あそこにいるものは。
私か。

はあっ、はあっ、はあっ
上半身だけ起こす。
夢か。
気持ち悪い。
気が狂いそうだ。
強烈な喉の渇きを覚える。
列車がガタンゴトンいっている。
それ以上にアーウィングの手がガタガタ震えていた。
水の入った水筒に手を伸ばす。
口に水を含む。
「げ・・げふっ・・・お・・・え」
口が受け付けてくれない。
そう、今飲みたいのは、血。
そこに良い標的が居るではないか。/ヤメロ。
ほら、あきらめて喉にかぶりつけ。/やめてくれ。
全ての渇きは癒されるぞ。/気持ちが・・・悪い。
口が大きく開く。
向かいの座席ですやすやと寝ているクランの喉にめがけて犬歯が走る。
噛みつく寸前、何とか理性で顔を止めた。
ピタッ。
クランの喉の寸前で、アーウィングの口が止まる。
金色の髪の毛がアーウィングの顔に当たる。
やめろ/あきらめろ
止まれ/あきらめろ
動くな/あきらめろ
・・・・・・・
くー。くー。
クランの寝息が聞こえる。
ハッとする。
(よく考えればゾンビの彼女に血はないのか。しかし・・・・)
アーウィングの理性がようやくまともに動き出す。
「気持ち・・・悪い。」
強烈な吐き気と、自己嫌悪を覚える。
「押さえ切れてないな・・・・吸血衝動が。」
そして、嫌な夢も思い出す。
「クソ・・・」
もう寝ることは出来そうもない。
なによりも、もう一度寝たら吸血衝動に理性が食い破られてしまいそうだ。
ランプに火を付けた。
本をカバンから取り出す。
薄暗い光の中、早い心臓の鼓動を押さえながら本に目を落とした。





「朝ですよ。起きて下さい。」
「んあ?ああ・・・はいはい・・・・」
頭をポリポリかきながら、眠そうにクランが体を起こした。
ずっと起きていたらしく、アーウィングも少し眠そうである。
「・・・あ、はいはい。おはよう、アーウィ。」
寝ぼけた頭がやっと状況を理解したらしく、クランが挨拶をした。
「後一時間ほどで目的地に到着です。支度を整えて下さい。」
アーウィングはやれやれ、といった様子で言った。
それを聞いたクランはなぜか不満そうな顔になった。
「え?後一時間?なら後一時間寝かしといてよっ!!」
そういうと、クランは再度横になった。
すぐ後から寝息が聞こえる。
「・・・・ホントに我が道を行く人ですね・・・・」
あきらめたようにアーウィングが呟いた。

こうやってみていると、美人というより可愛く見えますね・・・・・
そんなどうでもいいことをぼんやり考えながら。
クランの寝顔を見たり、窓の外を眺めたりしながら、
アーウィングは暇つぶしをしていた。

一時間後。

「はい、今度こそ朝ですよ。」
アーウィングが再度起こした。
「ああ、あらためてオハヨウ、アーウィ。」
また眠そうにクランが体を起こす。
「次の駅で降ります。と言っても終点ですが。はい、身支度を整えて下さい。」
「あ、身支度?そんなモン、このままでいいわよ。」
「・・・・・」



次へ