運 命      と           剣
Fate and Sword



【2章】 
《第3話 巡り巡って運命》


昼頃。二人はタタの捜索を打ち切り、明日この町を出ることにした。
「次の目的地、どうする?」
シェリクはリノに歩きながら聞いた。
ちなみに二人は今、メインストリートを歩いている。
「・・・そうですね、近くの町目指して行くくらいでしょうか」
心なしか、元気がない。・・・いや、事実だろう。タタは、半日探してもいなかった。
「タタなら気にするな。あいつのことだ、また旅してたら会うかもな」
「・・・そうですね」
一息、リノは大きく息を吐いた。それは気持ちを切り替えるためのため息。
「じゃあ、今からどうしましょうか!」
そうしてリノは微笑んだ。
「そうだな・・・とりあえず、昼ご飯。ついでに何処行くか考えよう。
そんで・・・ちょいと剣を鍛冶屋に見て欲しいな」
「?・・・その剣、どうかしましたか?」
リノが小首を傾げる。
「いや、どういう剣なのか詳しく知りたいし。ついでに少し鍛えて貰おうと」
「はぁ、そうですか」
「後は食料とかの消耗品。リノは何かやりたいことある?」
う〜ん、と唸って考えるリノ。
シェリクは苦笑すると、ま、歩きながら考えよう、と言った。
シェリクが歩くと、後ろからリノが小走りでついてくる。
ほほえましい光景だった。シェリクは少し恥ずかしがっているようだったが。

昼ご飯は、喫茶店のような所のテラスで食べた。
ちなみにリノは人前ではフードを被るくせがあるらしい。ずっと被っていた。
・・・・猫耳が目立つ、とシェリクは一人苦悩していたのだが。
閑話休題。
この町は名物のスライムゼリーのインパクトが強すぎるため見落とされがちだが、
食べ物は主に甘いモノが美味しいと評判らしかった。
白い外壁の家にカラフルな彩色。トロピカルなものがよく合う。
リノは綺麗に盛られたフルーツサンドというものを食べ、ご満悦だった。
パンにカスタードクリームと果物を挟んだこれについてはシェリク曰く、
「パンに果物を挟むなんて邪道だ」だそうだが、彼はジャムの存在を忘れている。
そしてそのシェリクはランチ(パンとトマトのスープ、それにフライエッグ)を食べ、
そしてデザートにチーズケーキを頼んでリノに笑われた。(リノ曰く、似合わないらしい)
「美味しかったですね」
「うん、なかなか」
そんな会話をしながら二人は店からでてきた。リノがフードを取る。
「さて、この町の鍛冶屋はメインストリートを挟んであっち側。ぼちぼち行こうか?」
「そうですね」
再び二人は歩き始めた。と、思ったら。
リノが固まった。
「・・・どうかしたか?」
シェリクがリノを見る。リノは何かをじーっと見ている。
シェリクがリノの視線を追っていくと・・・
その先には、露骨に怪しそうな占いの露店。
「・・・・・」
シェリクはリノが次に言う言葉を予想した。
「すいません、うらな」
「だめ」
即答する。
「・・・・・・」
ほっぺたを膨らませるリノ。
シェリクは脳裏に浮かんだ「胸きゅん(死語)」という言葉を瞬時に頭から追い出した。
「・・・無駄遣いできるほどお金無いんだから。だめだよ」
シェリクは説得を試みた。
「・・・・おねがいします」
膨れながらのおねだり・・・シェリクに20のダメージ。
「それにああいうのって詐欺多いし・・・」
「でもやっぱりこれから行くところとか占って貰ったほうが・・・」
必死のおねだり・・・シェリクに15のダメージ。
「それでもやっぱり占いなんか」
「シェリクさんなんか、嫌いです・・・(ぼそっ)」
究極奥義・・・・シェリク、即死。
「・・・仕方、な、い、ね、今度、だけ、だからなぁ・・・・」
苦しそうにシェリクはお金を出すのだった・・・哀れ。
しかし数秒後には嬉しそうに走っていくリノの後ろ姿を見て、
(あ、これはこれでよかったかも)
などと思ってしまう自分が情けなかった。
フードを被ったリノは占い師にお金を渡そうとした。
けれどその前に占い師は「ちょっと待って下さい」と止めてしまった。
なぜ止められたのか分からないでいると、後払いですから、と言われた。
よく分からない摩訶不思議な衣装のせいで顔は分からないが、若い女の声だった。
じーっと、視線を感じるリノ。恐らく、布越しに目を見ている。
そして、歌うように言葉が紡ぎ出される。

       貴方自身の運命は『シルバレオ』に行きたがらないでしょうが、
この世界の運命はあなたを『シルバレオ』に引き寄せるでしょう。
あなたは、行かなくてはいけない。かの町へ。
そして会わなくてはいけない。逢わなければならない。一人の女性と。
その女性の名は      コルト=ウルブズ。
貴方は剣に祝福されし者。それ故に魔法使い。貴方は剣を持ってはならない。
それは冒涜。それは自失。それでも貴方は剣を取ることになるだろう。
剣に祝福されし者だから、剣に祝福されし者だから          」

占い師はそれだけ言い終えた。そして付け足す。
「占いの意味は自分で考えて下さい」と。
呆然としてるリノ。唖然としてるシェリク。
「・・・・ええっと、お代・・・・」
占い師がそう言ったことに気がついて、リノは慌ててお金を差し出した。
「占いの意味分かったか?」
「分からない・・・です」
二人とも首を傾げるだけだった。

しばらく歩くと、鍛冶屋に着いた。
外にまで聞こえてくるカキーン、カキーンという規則的な剣を打つ音。
耳を押さえているリノに苦笑しつつ中にはいる。
中にはいると炉があり、そこで剣らしき物を打っている人影。
熱気が伝わってくる。暑苦しい。
「へい、らっしゃい!」
ねじりはちまきをしたムキムキの親父が叫び声をあげた。
「新品の武器がほしけりゃ棚においてある!
武器の打ち直しや鑑定だったらちょっと待ってくんな!」
「鑑定。待たせて貰う」
シェリクはそれだけ言うと店の端にあった椅子に座ろうとした。
けれど、マントの端が引っ張られた。
何事かと思いリノを見ると、熱気のあまり目を回しかけていた。
汗をだらだら流し、フラフラしている。
そして耳から・・・煙が。
「・・・外で待たして貰うぞ!」
大声でそう言い、リノを脇に担いで外に急ぎ出た。

とりあえずリノに水分補給をさせるため
ジュースを買ってきた頃にちょうど店から主人が出てきた。
ガタイの良い、暑さも寒さも平気そうなオヤジだ。リノとは対極にある。
「えっとあんちゃん、用事はなんだい?」
声をかけてくる。
「この剣を鑑定して貰いたい。必要なら少し鍛えてくれ」
シェリクがそう返すと主人は店の中へ入っていって手招きした。
「鑑定なら今からしてやるよ。中入れ」
だいぶ落ち着いたリノを横に、シェリクは中へと入っていった。
中は先ほどに比べて涼しくなっていた。換気したらしい。
シェリク、リノと向かい合わせになるよう椅子に座り、オヤジが剣を舐めるように見始めた。
「・・・・・」
「・・・・・」
訳もなく、緊張する。緊張する意味も理由もないのに、緊張するから不思議だ。
「これ、切れ味は皆無だな」
オヤジが、聞いてくる。
「ああ。叩ききることぐらいしかできない」
シェリクは簡潔に返す。
「・・・・」
「・・・・」
そして、また沈黙。
オヤジが、口を開いた。
「これだがな・・・鍛えようがない」
「どういうことだ・・・?」
「あんちゃん、これどこで手に入れた?」
「召喚された物だ」
「やっぱりな・・・これな、恐らくOPだ」
「!」
猫かぶりモードのシェリクの顔がこわばる。
リノは話についていけてないみたいで二人の顔を見て困っている。
「使用方法は不明だが、この中心の飾り石はエネルギーの集積と蓄積回路だ。
そしてそのエネルギーを何らかに変換するOP・・・ってとこだな」
「・・・・」
「OPなんて物はロストテクノロジーの塊だ。
使われてる材質だって特定できやしねぇ。とてもじゃないが鍛えるなんて無理だ」
「・・・・そうか」
「まぁ、普通の剣として使っていても問題はない。使用方法はがんばって編み出してくれ」
それだけ言うと、主人は剣をシェリクに投げて渡した。
そう、大剣を、投げて。
突然だったのでシェリクはキャッチできず、取り落としてしまった。
そしてそれを掴んだのは、リノ。
『・・・貴方は剣を持ってはいけない』
占い師がそう言ったのに、リノは剣を持った・・・そして。
                 何故か、時がとまった。
「・・・・・・・・・・」
何も喋らないリノ。停滞する空気。
「・・・リノ、どうかしたか?」
沈黙に耐えきれず、話しかける。
そして。
唐突に、リノの纏うオーラが変わった。
そう、まるで別人のように。
「・・・・え?」
シェリクは一瞬気のせいかと思った。けれど、気が明らかに変質している。
・・・完全に、別人。
フードのせいで、下を向いてしまったリノの目が見えない。
「・・・・」
「・・・・」
空気が、凍り付く。
シェリクは、圧倒された。それから殺意や害意が発されているわけではない。
けれど、その、突然現れたものに、シェリクは竦んだ。
「お前、誰だ」
かろうじてシェリクはそう絞り出した。
【リノ】は、きょろきょろと周りを見た。ここどこだ、と言う感じで。
「「お前、誰だ」
もう一度、聞いた。
それに対し、リノの下から聞こえてきた声。
「・・・こいつに剣持たせちゃいけないぜ。覚えときな」
その時、シェリクの方を見た【リノ】の目は・・・・違っていた。
【リノ】が、剣から手を離した。
カチャン
剣が地面に落ち、音を立てる。
「・・・・・あれ?シェリクさん、どうかしましたか?」
そこにいるのは、いつもリノのである。
自分がどういう状況にあったか、把握していないらしい。
じゃあ、今のあれは・・・・?
今まで息をしていなかったことに気づき、シェリクは大きくため息をついた。
            それほどまでに、緊張していたのか。
「いや、なんでも、ない」
一拍以上遅れて、シェリクは返事をしたのだった。
一つ分かったことは。リノには何か秘密がある、と言うことぐらいだった。
二重人格?憑依?亡霊?可能性はいくつか上がる。
あれは、一体                     

「シェリクさん、これからどうしますか?」
リノが聞いてきた。
「・・・・シルバレオに行こう」
シェリクは答えた。
占い師は言っていた。シルバレオに運命はある、と。
リノ自身も気づいていないもう一つの人格。あれがなんなのか、はっきりさせたかった。
・・・・害のある物じゃないと良いが。
「シルバレオ、ですか・・・なんだか違和感あるんですよね・・・」
リノがぼやく。
「なんでだろうな。まぁ、とりあえず良いだろ?」
「はい。べつにいいですよ?」
次の目的地はシルバレオ。
銀獅子の剣聖、シルバレオ=ソルバットの名前の町。
不老の魔女の住む、鍛冶職人の町である。




【第3話 終】
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第4章に続く