運 命      と           剣
Fate and Sword



【2.5章】
《閑話 一方、色々あるようで。》


シルバレオシティについた、トールとフロディ。
疲弊しきっていた二人は、早急に宿を取ることにした。
金銭的な問題は今はない。けれど節約に越したことはない。
二人は同じ部屋に泊まった。まぁ、二人部屋なのではあるが。
「勇者レベルが上がってくれば、ホテルとか安く泊まれるらしいぜ」
「ああ、勇者特権って奴ね?」
無駄話に興じる。
ベットに腰をかけているフロディは、一時よりだいぶ立ち直っていた。
やはり・・・・孤児院での一件で、少しは心が晴れたのだろうか。
もしくは、単に空元気の可能性もある。
いや、空元気だとしてもそれをするだけの気力が戻っているというのは良いことだと思う。
・・・そんなことを考えていたら、ふと、会話が止まった。
「シェリク、どうしてるのかなぁ」
フロディが、そんなことを呟く。
「・・・・大丈夫か?」
「まぁ、ね。うん、前より少しは吹っ切れたかな・・・・」
フロディは天井を見つめた。
「ごめんね」
「何がだよ」
突然謝られても、何がなんだか分からない。
「トールの気持ち、ちょっと前から気づいてはいるんだ」
「!?」
驚く。驚きが、隠すこともできず顔に現れる。
フロディは続けた。
「私がシェリクのこと好きなのは、トールも知ってるでしょ。
・・・だから、気づかない振りしてた。
それで、シェリクのこと、まだ私、引きずってるし。ごめんね」
「・・・・」
何も、言い返せなかった。
「もうしばらく待って欲しい。気持ちの整理、つけなきゃ。
シェリクはここには、もう、居ない。だったら今を大切にしなきゃいけないの、分かる。
けど・・・それでも、ね」
それだけ言い終えると、フロディはベットに転がり、布団に潜ってしまった。
「はい、お話終わり!私は寝るっ!お休み!」
「・・・・ああ、お休み」
顔を真っ赤にしているフロディを想像し、苦笑した。
そしてもう一つのベットにトールは潜り込んだ。
すぐ隣のベットで寝息を立てる(ふりをしている)フロディが気になる。
眠れない。
(はは、今日は一晩眠れないな・・・・)
一人、苦笑した。
そして、色々考えた。
今の自分一人の力では、フロディと旅をするのすらままならない。
何か、何か。何が、できる?
シェリクのように、力も素質もない。
それでも、僕は守らなくてはいけない。隣の少女を。
・・・フロディ。
彼女こそ、トールという青年のささやかな幸せその物なのだから。

その時、カインとメリアは野宿をしていた。
一般的な高圧縮テントを広げる。
テントを組み上げる作業を一人でカインはこなしていく。
「カイン、手伝おうか?」
メリアは暇そうに聞いた。
「では、食事の用意をおねがいします。食材はそこに入っていますから、適当に」
「ん、了解!」
やることができて嬉しいのか、メリアは先ほどこれまたカインが組み上げた
薪に、石を入れて火をつける。
その間にナベに水を張り、食材を小さく切っておく。ついでに調味料も。
熱くなった石をナベに放り込むと水は一気に沸騰した。急いで蓋をする。
こうしてスープができあがるのだった。
そのころにはテントを張り終えたカインがこちらに来ていた。
「はい、ご苦労様です」
「そっちこそ」
お互いに、笑いあう。微笑むカインの顔は女の子のように可愛い。
「じゃ、さっそく食べよ」
「そうしましょうか」
カインはメリアの隣にゆっくりと座ると、お椀にスープを分けた。
「はい」
中に熱いスープの入ったお椀を手渡される。金属のお椀が熱い。
「ありがと」
早速口を付けると、思いの外美味しくできていた。
「あ、おいしい」
「本当ですね」
にこにこと笑顔を絶やさないカイン。たまに不安になる。
こいつは笑顔以外の表情を知らないんじゃないか、と。
そんなことはないのはよく知っている。
怒ったところも、泣いたところも、長いつきあいの中見たことがある。
けれどこいつは、普段、ずっと笑っているのだ。
前に聞いてみたら、こんな風に返された。
「幸せですから」
・・・・よく分からない。
まぁ、けど、私はこいつがいい。
こいつじゃなきゃ嫌だ。
特異な存在の私を、こいつは、こいつだけは、認めてくれた。
自然と、脇腹のあたりに手をふれる。
魔導衣越しに伝わってくる、私の肌の感触。
それは普通の肌の感触ではない。
それに気がついたのか、シェリクがこちらを見た。
「気にすることはありませんよ」
「・・・まぁね」
本当は私はこいつに恨まれても仕方がない。
けれどもこいつは私を選んだ。そう、それだけで十分。
・・・・うん、幸せ、かもね。

ファインは歩いていた。
彼の性質として、彼はあまり昼間に外に出たがらない。
基本的に夜に行動する。
アカデミーにいる間はその限りでは無かったが、
それでも長期休暇の時などはずっとそうだった。
意味はない。けど、そう言うものなのだ。
パートナーが作れず、あぶれてしまった新米勇者は少なからずいた。
けれど、そんな中勇者試験をクリアできたのは一人だけだった。
ファイン=クラッド。彼だけである。
彼は余裕の表情で荒野の塔五階のゴーレムを潰して見せた。
ちなみに彼は槍術のほかに、実は秘密特訓で少々魔法も使える。
最もそれを知っているのは本人と絡まれたシェリクくらいのものだったが。
「さて、と・・・どこへ行くか」
一人、呟く。
地図によると、シルバレオかフルートか・・・
「まぁ、適当に歩いてればどっちかにつくか」
何も考えず、彼は歩いていた。

シルバレオに向けてフルートから出発して、数時間後。
シェリクとリノはテントの中に転がっていた。
食事も終え、後は寝るだけ。
そんなときは、しばらく無駄話に興じるのが良い。
リノは会話は下手だが喋るのは上手い。
つまり、面と向かって喋るのは苦手だが、一方的に何かを伝えるのは得意なのだ。
ただ、会話が途切れるのも嫌なのでたまにネタ振りぐらいはする。
「そう言えば、リノの召喚は何で剣なんだろう?」
結構気になっていることでもある。
「何ででしょうね。そう言えば占い師さんも何とか言ってましたね」
「『剣に祝福されし者』」
「あ、それです!」
忘れた事を思い出したときの顔のリノ。どことなく嬉しそうでもある。
「どういう意味なんでしょうね?」
「さぁなぁ・・・」
「ただ、一つ分かるのは・・・・」
「分かるのは?」
「剣を売ればお金に困らない、と言うことです」
「・・・・なるほど」
そう言って、微笑んだ。リノもほほえみ返してくる。
「さて、寝るか」
「そうですね」
「お休み」
「お休みなさい」
そうして、布の擦れる音がしばらく聞こえ、静寂が訪れた。

そうしてそれぞれの夜は明けていくのだった・・・・。




【2.5話 終】
《三章へ続く》
あとがきへ