運 命      と           剣
Fate and Sword



【1章】
《第1話 魔法なのに剣?》


アカデミーを飛び出した。}
悔いはない。
これが自分の選んだ道なんだな、と思った。
自分は、彼女を守っていこうと思う。
守る物を見つけられなかった自分は、天才にはなれなかった。
ならば、自分は。
彼女のために、本気になれるのだろうか。
天才に、なれるのだろうか。

体育館を飛び出したその足でパートナー申請所に行く。
ちなみにパートナー申請所があるのは学校出口。
ここでパートナーを申請し、そしてそのまま・・・旅立つ。
これで、アカデミーでの生活も終わりである。
寂しくはない、けれども感慨は深い。
まがりなりにも孤児だった自分を拾って育ててくれたのはここだ。
・・・そんな感傷に浸っていると、リノに話しかけられた。
「私で、いいんですよね?」
心配そうではなく、一度確認しておこう、と言うような響き。
「もち、ね」
とりあえず、彼女には素の自分を見せようと思う。
彼女は嬉しそうにも一度微笑んだ。
「さて、一応もう一度自己紹介を。
俺の名前はシェリク=ロフト。戦士課剣士部の特待生だよ」
「私はリノ=メータ。魔法使い課召喚部所属、おちこぼれ、です」
最後は冗談っぽく言う。そんな仕草一つ一つが可愛い。
「しゃべり方、変わりますよね?使い分けですか?」
リノが当然の疑問を出す。
「ん。こっちが素。向こうは猫かぶり用」
リノはクスッと口に手を当てて笑う。
「そう言えば、背中の剣は・・・どうしたんですか?」
やはり彼女はこれが自分が召喚した剣だと知らない。
「んにゃ、これは愛刀」
などと、嘘をついてしまった。
「そうなんですか。大きいのを使ってるんですね」
感心したようにリノが見てくる。気恥ずかしくなって目をそらした。
(この剣、リノが俺の前で初めて召喚した物で、
それでリノを守る誓いをたてたなんて恥ずかしくていえるかっ!!)
ま、そんな訳であった。
さてと。質問されてばかりもあれなので質問し返すことにする。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1, やっぱり堅実に趣味などを?
2, ここは気になる魔法の話でも。
3, 男ならスリーサイズ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・・・・二番でファイナルアンサー。
「リノの魔法について詳しく教えてくれる?」
やっぱり来たか、と言う顔をリノがする。
「・・・笑わないで下さいね」
「それはネタによる」
「・・・私のできる魔法は、異世界からランダムに剣を召喚することだけなんです」
だけ、が強調されている。一瞬、呆然とする。
「どんなに練習しても、剣以外の物が召喚できないんですよ・・・
降ってくる剣もまちまちなので、大きいの、小さいの、錆びたの、爆発するの、
折れてるの、変な形の、見たこともない模様がついてるの、その他様々・・・」
「・・・・」
「おまけに、場所も完全にはコントロールできないんです・・・
なさけない、です・・・だから、落ちこぼれで、パートナーも見つからないって・・・」
なんだか、一人で沈んでいくリノ。
「だからパートナーは見つかったでしょ。大丈夫、魔法、少しずつ練習しよう。
旅しながらさ。だから・・・一緒に、いこう?」
俺は、この心も体も華奢な女の子を守ると決めた。それが全てだ。
「・・・・はい!」

それから校門までは、歩きながら色々喋った。
何せ無駄に広い学校。出口まで結構ある。
「そう言えば、パートナー申請って、何をするんですか?」
「『相棒届』をだすって」
「何ですか、それ」
「・・・・婚姻届みたいな物らしい」
「事務的ですね」
などと笑いながら。
結構あるはずの出口への道のりは、二人にとっては決して長くなかった。

フロディは、泣き崩れた。
二人で談笑しながら門をくぐるシェリクを見たら、涙が止まらなくなった。
あの瞬間は、諦められたと思ったのに。
未練がましい自分に自己嫌悪。彼を忘れられなかった自分に少し安心。
普段気丈な彼女が泣き崩れることなど、滅多にない。
それを見て、トールはどうすればいいのか苦しんだ。
目の前で、好きな人が苦しんでいるのに。自分は、何が出来る。
パートナーは、お互いにもう決まっている。自分たちなのだから。
けれど・・・忘れられない、シェリクというあまりにも大きな存在があった。
ぐすぐす言いながら、フロディは声を出す。
あのね、から始まった言葉は、まるでトールに話しかけているようだが、
そこにいた人だったら誰でも良かったのだろう。
「私が、ここで、剣士になるの、決めたのも、シェリクの、ためなの。
あのことは、孤児院の、頃からの、つき合いで、私は、彼の後ろを、いつも、おってた。
シェリクが、アカデミーに、拾われて、私も、がんばった。
やっと、入って、シェリクといっしょに、いた。なのに、なのに、なのに!!!!」
「・・・・・」
「話に、よると、あの子、普通科の、子、みたいだし。何で、私、じゃないの!
何で、あんな、の、なの。なんで、なんで、なんでぇぇ・・・・」
トールには、『僕が代わりになるよ』なんてことは言えなかった。
そんな気休めは、意味がないと知っていたから。何より、拒絶される気がしたから。

パートナー申請所で書類を書き、預けてあった荷物を貰う。
縦長のサンドバックのような鞄のシェリク、布と紐のシンプルな形の鞄のリノ。
そしてようやく校門を出る番。
校門をくぐると、思わぬ待ち人が居た。
槍の入っている青いケースを肩にかけ、スーツのような服を着込んだ青年。
パートナーは、居ないらしい。
ファイン=クラッド。出来ればお関わりになりたくない相手である。
「よ〜うシェリク君。パートナーは、と・・・おうおう、猫耳のロリっこさんですか。
なかなかマニアックな趣味をお持ちですねぇ!」
さすがに、頭にくる。
「・・・・」
けれど、何も言わない。こういう輩は相手をすると調子に乗る。
「・・・・むかつく奴だ。それとも怖くて何も言えないか?雑魚め!」
「・・・・」
ウザイ。正直、今すぐにでも斬りつけたい。
けれども、無駄な争いは押さえるべきだろう。
何より、今はもう一人ではないのだから・・・・
そのとき、リノが叫んだ。
「シェリクさんのことを悪く言わないで下さい!」
リノは、わなわなと震えている。我慢できなかったらしい。
「シェリクさんはいい人です!悪く言うことは許しません!」
必死さが、伝わってくる。けれどもこの場で必死というのは、弱者と言うことである。
シェリクは、ため息をついた。
「・・・何が望みだ?」
静かに、下目で睨み付けて、静かに言う。
「これに、決まっているだろう」
リノを巻き込みたくないと言うシェリクの思いを感じたのだろう。ファインは挑発に乗ってきた。
彼はシェリク以外には思いの外紳士だったりするのかも知れない。
ファインはケースから槍を出した。
先端が非常に大きく、広がっていて派手な装飾のなされている三つ又の槍。
金色の刃が、彼の(悪)趣味を伺わせる。
「・・・・ふん」
シェリクは背の大剣を手にした。
「・・・武器を変えたか?まぁいい。今日という今日は、お前に一泡吹かせる!」
いつも負けていること丸出しの言葉。ファインは槍を構え、走ってきた。
突進からの連続三段突き。ファインのいつもの攻撃である。
シェリクは重そうに大剣を青眼に構える。
繰り出された突きを剣で受け止め、三つ又に流して止める。
更にそこからぐるりと剣を回し、槍をファインの手から叩き落とす。
「ちっ!」
しかしファインは手を離さず、身を任せて自分ごと回った。
虚を突かれ、シェリクに一瞬動揺が走る。
体勢を立て直したファインは再度突き・・・かと思えば、薙ぎを繰り出した。
威力は低いが出は早く、あたればそれなりにダメージはある。
いつもならば、その薙ぎは剣で止めていた。
けれども、今自分が装備しているのは大剣。重いのでどうしても反応が遅れる。
シェリクは後ろに飛び何とか回避したが、頬を掠った。
すれて、血が出た。思いっきり頭を狙っていたらしい。
「・・・今日は切れが悪いな」
ファインはつまらなさそうに言った。
「止めだ止め。得物のせいかもしれないが今日のシェリクは雑魚だ。
こんな日に勝っても面白くとも何ともない。
ふん、さっさと消えろ負け犬、目障りだ」
ファインはそれだけ言うと、面白くなさそうに去っていった。
リノが、駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
「ん・・・」
情けない。彼女を守ると誓ったばかりなのに、
武器が使い慣れていないと言うだけでファインごときに後れをとった。
あれは、完敗としか言いようがない。
「大丈夫です、私は気にしてませんから・・・それより無理をしないで下さい。
怪我されても私は回復魔法、使えないですし」
彼女の心使いが、胸にいたかった。

あれは俺がずっとずっと追い求めてきた奴なんかではない・・・
つまらない、つまらない、つまらない!
奴は強く、気高かった。冷静で、孤独で、何より強い。
私は奴に惚れ、嫉妬した。だから俺は、奴を倒そうと躍起になった。
自分でも見苦しかったと思う。
けれど俺は人一倍勉強し、人一倍訓練し、
尊敬し、嫉妬し、ライバルとして認めた奴の背を追った。
だと言うのに・・・・!
ああ、つまらない。
・・・大丈夫だ。奴はきっと、また、俺を越える。今日のは何かの間違いだ。
そうすれば、俺は、また奴の背を追える。
追い越した瞬間より、追っているこのときが至福だ。
奴を追って、追って、そして、至高の高みへ。
願わくば、その時が早く来ることを・・・・!!!!
・・・・アカデミーで三番だった男は、そう、願った。

「とんだ災難でしたね」
後ろから、声がかかった。
片膝を突いていたので、顔だけそちらに向ける。
かなり低い背、印象的な少し長めの白い髪。
緑色の綺麗な瞳に、ぷにぷにのほっぺた。
女の子のようだが、れっきとした少年である。学校指定のコートはしっかり茶色。
珍しい人に声をかけられた物だ。
「カイン=フリック」
シェリクが驚いた目で見る。普段、この少年と話すことはあまりない。
この少年は・・・・そう、見た目のかわいさに反して学年一の戦闘能力を有す。
更にその力は桁外れ、彼の前にはシェリクなど足元にも及ばない。
「シェリクさん。ファインは・・・あなたのことが好きで好きでたまらないんですよ」
突然カインは意味不明なことを言い出す。
「・・・気持ち悪い。何だそれは?」
いつもの猫かぶりで返す。それにカインはふふふ、と可愛く笑った。
「彼は、あなたに強く気高くあってほしいと願っているんですよ。
彼は間違いなく天才です。そしてあなたも。
彼には今まで、ちょうど自分より一歩上、と言う人間が居なかった。
だから彼がほしがっていたのはライバルだったんです」
露骨に嫌そうな顔をするシェリク。
「・・・悪趣味だな」
「いえいえ、そんなことないですよ。それに、彼は以外といい人です。
友達の私が保証しますよ」
屈託無く、邪気の欠片もない顔で笑うカイン。
「・・・ならばせめて、あの喧嘩腰の態度はどうにかしてくれ」
退屈そうに、シェリクは返す。
「彼は素直じゃありませんから」
にこにこ笑うカインを見て、シェリクは大きくため息をついた。
そのため息は、会話の一段落にもなり、シェリクは一つ質問することにした。
「・・・前にも一度、聞いたことがある質問だ。なぜお前は、強い?」
シェリクは、この質問を以前にもしたことがある。
その時と同じ答えは、返ってくるのだろうか。
「守りたい人が、居ますから」
全く同じ答えが、返ってきた。
「あなたは、どうですか?」
「え?」
突然問いが返され、硬直する。
「あなたは、何か守りたい物、守りたい人、守りたい何かがありますか?」
「・・・・」
「・・・・」
「見つかった、かも知れない」
「・・・そうですか」
カインは、微笑んだ。
「だったら、すぐに私より強くなれますよ。
武器が変わって大変でしょうが、がんばって下さい」
それだけ言うと、カインはマントを翻し去っていった。
「余計なお世話だ」
隣を見ると、会話に参加できなくて少し膨れているリノが居た。

そう、そもそも自分の本来の武器は大剣ではない。
そこまで大きくない背格好に、大剣は重すぎる。
それでも。
これは、彼女が初めて僕の前で召喚した剣。
彼女と僕の出会いの印で、そして僕はこの剣に誓った。だから。

「あの人・・・カインさん、ですよね?」
「ああ。『白髪炎鬼』カイン=フリックだよ」
「話によると、ファインさんとカインさんはお友達なんですね・・・」
「ああ、すっげえ意外だ・・・」
「その剣、愛刀じゃないんですか?」
「ん〜、愛刀というか、前から『旅始まったらこの剣使おう』と決めてた剣」
・・・また、嘘ついた。

リノは後ろを振り返る。
色々妨害入ったけれども、二人で世界に旅立てた。
後ろにある、学校の壁、つまり町の外壁がその証。
ここから先は、荒野だ。草原もある。森もある。
遺跡、洞窟、塔、ありとあらゆるジャンルのダンジョンに挑み、
勇者レベル認定試験に合格し、勇者レベルを上げる。
そして、真の勇者になる。
さぁ、旅が始まるんだ!

「意気込んでいるところ申し訳ないんだけど・・・」
シェリクが、リノを現実に戻す。
「・・・何ですか?」
ほっぺに空気をためてふくれるリノ。
「いや、モンスター・・・」
・・・・気づけばそこには、緑、青、赤、黄色のどろどろした生き物が居た。
どろどろの中心には、それぞれ変な核がある。
「緑のがアメーバ、青のがゲル、赤のがゼリー、黄色のがスライム」
「適当なネーミングですね・・・」
「正式名称らしいけどな」
欠伸をしながら、シェリクが言った。
「普通に考えて、こんな奴らに負けることはないよな・・・」
生きているのかどうかも分からないようなのっそりとした動きのそれら。
近づくと取り込む気なのか襲ってくるが、簡単によけられる。
「・・・・」
「・・・・」
「逃げて・・・いいかな?」
沈黙に耐えられず、シェリクが口を開く。
「あ、どうせなら魔法の実験台にしましょう」
「何するの?」
不思議そうに聞き返すシェリクに、えっへん、とリノは胸を張る。
「きっと、降ってきた剣が敵に当たったら、結構強いと思うんです!
だからコントロールできるといいな、って」
「あ、なるほど」
納得顔のシェリク。
「じゃあ、やってみましょうか」
マントの中から杖をとりだし、
「あ、これはソ−ロッドって言います」
などと解説しながらゆっくり魔法陣を書いた。
一応戦闘中なのだが、緊張感は0である。
「今回は魔法陣のみのショートカットでいきます・・・とうっ!」
青白く浮かび上がった魔法陣の中心を、ソーロッドとかいう杖で突いた。
ぐにゃりと、空間がゆがむ感触。
空気が変わり、異世界の風が一瞬吹く。
そして、空から何かが降ってきた。
ちょうど、ドロドロした奴らの上の方。
「お、いい感じじゃない・・・」
凄まじい音を立てて、大きな、派手な装飾の赤い剣が地面に突き刺さった。
下にいた黄色のスライムが突き刺さり、核を貫いた。
ブル、っとふるえるドロドロ。
空から降ってきた剣は見事敵の一体を貫いて見せた。
「よし、ジャスト!巧いじゃん!」
「やりました!幸先いいですね!」
うまくいったことを喜んでいると。
後ろからじゅわ、となにかが蒸発する音がした。
振り返ると、スライムのドロドロが跡形もなく蒸発している。
そして、赤い剣からは。
いかにも熱そうな目映い光が迸っていた・・・・!
・・・・・・
この、雰囲気は。
いやーな予感がした。
「ふせろっ!!」
シェリクは叫んだ。
どっかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
次の瞬間、大爆発。

クレーターが、できた。
間一髪驚いて跳んでしゃがんで危機を脱した二人。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
二人は、呆然とするしかなかった。
「・・・・ごめんなさい」
リノが、謝る。そして、堰を切ったように謝罪を口にする。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!ごめんなさい、私が勝手に魔法を使ったから!
もう少しで、二人とも死んじゃうところだったし!ごめんなさい!ごめんなさい!」
必死になって謝り続けるリノ。
声が小さくなって、小さな肩がふるえて、それでも謝り続けた。
「いや、いいよ。大丈夫だったし・・・」
シェリクが、苦笑いをしながら止めようとする。けれど、火に油。
また声を大きくして、リノはごめんなさいを繰り返す。
「いえ!私が悪いんです、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・」
シェリクは、困った。自分はどうすればいいのか分からない。
だから、思った通りのことをした。
「うるさい!」
大声で叱咤。リノがビクッとし、止まる。
「ごめんなさいはもういい!お前は悪くないって言ってるだろ!
何の劣等感でそんなに謝るのか知らないけど、必要ない。ほら、もっとシャンとして!」
目を赤くしたリノが、不思議そうな目でシェリクを見る。
「・・・・・」
「ごめんなさいは一回でいいよ。その代わり、きちんと反省すること。それが大事だと思う」
「・・・・」
リノは、少し何かを考える素振りを見せた。
そして、言った。
「はい。・・・・ごめんなさい!」
そして、微笑んだ。

道々、歩く。
地図を片手にシェリク。
「なぁ、これからどーする?って、だいたい決まってるが」
「とりあえず、『勇者試験』受けましょう」
リノが、返す。
勇者試験。それは勇者としてのレベルを計る試験である。
レベルごとにそれぞれ別のダンジョンで行われ、1から100まである。
基本的に土日祝日以外は休まず営業しているので、年中受けることが出来る。
「ん。そーだな。とりあえずレベル1試験から。会場は・・・
『荒野の塔』・・・ここから北北西に12qってとこだな」
「じゃあ、いきましょうか! 」
「よし、いくか!」
長い一日だったが、旅は今日から始まったのだ。
日が西に傾き始めている。
目指すは全国統一資格勇者試験レベル1試験会場、『荒野の塔』である。
レベル0の勇者の旅が始まった。


第1話、終。
二話へ続く