これは、もしもの物語。
もしもは、どこまで行っても、もしも。
決して現実にはなりえないあやかし。
けれど、あったかもしれない、もう一つの物語。
そう。
これは、一羽のアヒルが迎えた、もう一つの幻の未来なのです。
最後の欠片
あたしの目の前で、みゅうととるぅちゃんが笑ってる。
その笑顔は、とってもとってもとっても幸せそうで。
だから、あたしはとってもとってもとっても嬉しくて。
笑顔を浮かべて、二人の旅立ちを見送る。
――ズキン。
「…あれ?」
なんか、おかしい。
「あひる…?」
るぅちゃんが心配そうにあたしの顔を覗きこむ。
その横に寄り添うみゅうとも一緒に。
――ズキン。
ほら、また。
「ごめん…なんでもない、なんでもないから!あたしってばまた変なものでも食べちゃったのかなー!?あは、あはははははははは!!!」
グワグワグワグワグワグワ!!!
…って、言葉になってないよだってあたしってば鳥のアヒルだしでもこのままじゃ二人に心配かけちゃうしあぁ、もうこの痛みはなんなのっ!?
「…あひる」
そんなあたしを、とても…そう、それはとてもとても優しい瞳でみゅうとが見つめて、言った。
「最後の欠片を探して欲しい。きっと、待っているから」
「グワ?」
…欠片って…心の欠片のこと??
だって、もう欠片は全部見つかって、だからみゅうとは元の自分に戻れたんじゃ…?
それにあたしはもうチュチュじゃないし…。
「頼んだよ、あひる」
みゅうとは優しい瞳のまま笑って、るぅちゃんと一緒に旅立っていく。
――ズキン、ズキン。
「あひる…お前…」
あれ?ふぁきあ?
どうしてそんな顔であたしを見るの?
「…馬鹿。泣きたい時くらいはちゃんと泣け」
泣く?
みゅうともるぅちゃんも幸せで、ハッピーエンドになったのに、どうしてあたしが泣くの?
「グワ…」
嗚咽が口から漏れる。
あれ…?
泣いてる?あたし、泣いてるの??
――だって、そう。そんなのは当たり前。
風に乗って、声が聞こえた。
「エデルさん…?」
――あなたは、みゅうとが好きだったんだもの。
うん、あたしはみゅうとが好きだよ。
るぅちゃんも大好きで、だから二人が幸せで嬉しいはずなのに。
――あひる。あなたは王子と一緒にいたかったでしょう?
…うん。
――誰よりも側にいたかったでしょう?
……うん。
――なら、それが全て。だからあなたは、泣いていいの。
………うん。
そっか、そうなんだ。
「グワ、グワアアアアア!!」
どうしてだかわからないのに、だけどすごく納得して。
あたしは、ただの鳥のアヒルのあたしは。
グワグワと声をあげて、泣いた。
◇
あたしは欠片を探していた。
みゅうとが言っていたのが本当に心の欠片のことかはわからないけど。
みゅうとが嘘を言うはずないし、あたしは探し続けていた。
だけど結局見つけられないまま。
今日もあたしは湖に戻って、眠る。
ガサ…
草をかき分ける音が聞こえた。
振り向いて、あたしは言葉を無くす。
だって、そこにいたのは…
「あなたは…誰?」
「…ぼく?」
ぐわ、としか聞こえない声で語りかけたあたしの言葉に彼が振り向く。
銀の月の光の下に輝く髪は、間違いなく懐かしいあの人の髪。
「ぼくは…みゅうと」
「みゅうと!?」
みゅうとの欠片じゃなくて、みゅうと!?
でもみゅうとはジークフリートでるぅちゃんと一緒に帰ったはずで…。
「ねぇ、君。チュチュを知ってる…?」
「グワ?!」
「会いたいんだ…すごく。チュチュに、会いたい」
みゅうと…。
どうしてみゅうとがここにいるのか、馬鹿なあたしにはわからないけど。
この人はみゅうとだ。あたしにはわかるもん。
ジークフリートとも違う。あたしがよく知ってる、金冠学園のみゅうと先輩…!
みゅうと…チュチュは、あたしだったんだよ。
でも、言えなかった。だって…。
そうして、あたしは。
やっと、エデルさんの言葉の意味に気づいた。
でも、もう遅いよ。
チュチュの時にはその定めゆえに想いを口にすることが出来ず。
ただのアヒルに戻ったあたしには想いを告げる言葉がない。
「チュチュ…どこにいるの…?」
「みゅうと…」
寂しげなみゅうとの瞳にいてもたってもいられなくて。
あたしの体は自然に動いていた。
みゅうとの前に立つ。羽根の先まで神経を研ぎ澄ます。
「グワ…」
私と、いっしょに、おどりましょう?
羽根をかざして、つたないマイム。
だって、あたしに出来るのはいつだって一つだけ。
想いを込めて、踊る。それだけだから。
「…記憶も感情も失った、白紙の人間。
それは、新たな人生を始めるも同じこと。
王子ジークフリートが自身の心を砕いた時。
彼はある意味、『みゅうと』という新たな人間として誕生した。
彼が抱いた想い。築いてきた絆、記憶。
それは、『ジークフリート』としての彼としてのみではなく、確かに存在して。
ジークフリートが目覚めた時、彼は彼の中にはいられずに、欠片として別れてしまった。
みゅうとという何もない人間の中で全てを見てきたジークフリートが選んだプリンセスがクレールならば。
何もないはずの、そのみゅうと自身がが選んだプリンセスは…。
…か。ふん。強引にも程がある。
最低の物語だ」
「…ずら?」
「うん?お前はこれが気に入ったのか、うずら?」
「ずら!」
「わしのかいた物語の方がよほど最高だ。さぁ、もう行くぞ。最後まで見る必要もないわ」
「…チュチュ」
みゅうとが近づいてくる。
鳥のアヒルのあたしと、一緒に踊ろうと、手を差し伸べてくれる。
「みゅうと…」
え…!?
いつの間にか、あたしは女の子の姿になっていた。
夢にまで見たパ・ド・ドゥ。
ううん、本当に、これが夢なんじゃないのかな?
でも、あたしを支えてくれるみゅうとの力強さは、確かに現実で。
踊り終わって、あたしは決意していた。
想いを告げよう。
それにはきっと、言葉は必要ないんだ。
そうしてあたしは、想いを込めて、『あの』マイムをする。
「みゅうと…」
…愛して、います。
おしまい。
☆あとがき☆
一月ほど前に某サイトの隠しページの掲示板にカキコしたものです(笑)
そこの管理人殿にUPする際にはあとがきにみゅうあひへについて一言書けといわれたのですが(笑)
でもほら私、ふぁきあひとみゅうるぅも嫌いではないし?(おぃ(笑)
けどやっぱり卵の章から行って一番しっくり来るのはみゅうあひだと思う訳ですよ。
ってか卵の章だけ見たら絶対あの結末になるなんて思いませんって!!(力説(笑)
あの切ない踊りはなんだったんですか!?
るぅちゃんではなくチュチュを選んだのは幻ですか!?
あと個人的に「みゅうと」と「ジークフリート」は別人な感じなので…こんな話を書いてみました。
みゅうあひは切なさと和みの両方があるので良いです。
…私の小説は別として(爆)
ちなみに隠しページのMIDIを聞きつつカキコしたために、どうにもこの話にはあのMIDIがないとしっくりこなかったりするんですが…同じMIDI使うのもなんか申し訳ないので無音にしました(笑)
…あと最後に一言。
ドロちゃんの口調がかなり違う気がするよー(叫(笑)
2004/09/15
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