ずっと、私の




 ぱんっぱんっぱぱんぱんっ!!!

 部屋に乾いた破裂音が響く。
飛び散る紙テープ、雪のように舞う紙吹雪。
「はっぴーばーすでー!」
「誕生日おめでとうございます、にわちゃん♪」
「おめっとさん、にわ」
「おめでとう、潦さん」
 そんなクラッカーシャワーの中、多汰美、八重、真紀子、幸江が次々と祝いの言葉を送る。
「ありがと、みんな。ありがとうございます、おばさん」
 笑顔で答えるにわに、急に多汰美が真顔で腕を組みながらうんうんと一人納得するようにうなずいた。
「…いやぁこれでにわちゃんもまた一つおばさんに近づいたんじゃねぇ」
「あによ、まだそんな歳じゃないわよ。嫌なこと言わないでよね」
「…多汰美ちゃん、潦さん。それはおばさん否定されてるって思っていいのかしら…?」
 二人の会話を聞いて、笑顔で、しかし背後に確実に負のオーラを背負った幸江が呟いた。
「にわ、多汰美…今振り向いたらあかんで…」
 硬直するにわと多汰美に真紀子が額に汗を浮かべつつ静かな忠告を捧げる。
「あ、あはははは。ま、まぁまぁまぁ。お祝いの席なんですから」
 苦笑する八重のとりなしで、再びパーティは騒々しく、けれどとても和やかに進んでいく。
 そんな中、思い出したように八重がぽん、と手を叩いた。
「あっ、そうだ!にわちゃんにプレゼントがあるんですよ!」
「えっ!?七瀬一日独占権!?」
「言うてないやろ!!!」
 即座に顔いっぱいに喜色を浮かべて言うにわに真紀子が突っ込み、八重がこける。
自分の願望を否定されたにわは少しつまらなそうに、けれどすぐにまた自分の世界へと入り込みつつ呟く。
「なんだ…いいのに、プレゼントなんて。私は七瀬の気持ちがあれば…」
「ほんまにわちゃんは自分に正直じゃねえ…」
 あきれつつ呟く多汰美に乾いた笑いを返しながら、八重がにわの前に進み出た。
「あはははは…それはとりあえず置いといて…。
ええと、にわちゃん、これ、受け取ってください」
「ありがとう。えっと、開けていい?」
「はい」
 笑顔の八重から箱を受け取ると、にわは丁寧にリボンをほどき、ラッピングをはがしていく。
そしてふたを開けて、にわの顔はさらに喜びに輝いた。
「わあ!これ欲しかったのよねー!ありがとう、七瀬!」
 はしゃいで言うにわに、八重は笑顔で。
けれど、静かに首を横に振って、答えた。
「…いいえ。それ、にわちゃんのご両親からのプレゼントなんですよ?」
「えっ…?!なん、で…」
 にわが、信じられない、といったように八重の言葉と胸に抱えたプレゼントとを見比べる。
「少し前に、潦さんのご両親、うちに来られたのよ」
 穏やかに笑って、にわの呟きに幸江が答える。
「いつも仕事で忙しくて。でも潦さんはわがまま一つ言わないからそれに甘えてしまって悪いことをしてるって、そうおっしゃっていたわ」
「それで、にわちゃんはいつも気を使ってがわがままを言ってくれないから、プレゼントも何が喜ぶのかわからないっておっしゃったから…にわちゃんが、この間欲しいって言ってたものをお教えしたんですが」
 そこまで言って、八重は言葉を切り、困ったように笑った。
「でも、その時の、『にわちゃんが喜ぶものがわからない』って言ったお二人の顔、とても寂しそうで…」
「…」
「だから、たまには。ちゃんとわがままも言ってあげてくださいね?」
 優しい瞳で、諭すように告げる。
その瞳に、声色に、何より優しい想いに。
にわの瞳に涙がにじみ…そのままにわは、うつむいた。
「…」
「…にわちゃん?」
「…うん。ありがとう、七瀬…でも」
「でも??」
「でも…七瀬にだけはそれ言われたくないな、っていうか」
 涙を拭きながらいたずらっぽく笑うにわに、八重は首をかしげた。
「え…?」
「せやなあ。今聞いてみて私もそう思ったわ」
「真紀子さん?!」
「うんうん、同感じゃねえ」
「多汰美さんまで!?」
 しみじみとうなずく二人に八重は驚き、救いを求めるように母に視線を送ってみたが、幸江もまた、真紀子たちと同様の表情を浮かべていた。
 そんな中、にわは一つしっかりとうなずくと、決意を秘めた瞳で、言った。
「…決めた!私への誕生日プレゼント、『七瀬一日独占権』は涙を飲んで諦めるわ…」
「…せやから誰もそんなんやるなんて言うてないっちゅーねん…」
「あによ、うるっさいわねぇ。最後まで言わせなさいよ!」
 冷静に突っ込みを入れる真紀子にさらに突っ込みを返しつつ、にわは八重の両肩にがしっと手を置いた。
「…七瀬」
「は、はい!?」
「私、七瀬のわがままが聞きたい」
「はぁ…?」
 にわの言葉に、八重の口から困惑のため息が漏れる。
「八重ちゃんかて、ほとんどわがまま言わへんやんか」
「私らのわがままいつも笑うて聞いてくれるけど、八重ちゃん自身はほとんど言わんもんねぇ」
 言葉の足りないにわをフォローする真紀子と多汰美の言葉を受けて、にわはもう一度うなずくと、肩から手を離し、びしっと指を突きつけて八重に言った。
「だから、私は七瀬のわがままを聞いてみたい。これは誕生日命令よ!」
「そ、そう言われましても…」
「七瀬がしたいとか欲しいって思うものを言ってくれればいいのよ」
「なんでもええで?あんまり無理なもんやなかったらな」
「私もなんでも聞くけえ、遠慮せんでいいよ?」
「もちろん、お母さんもきくわよ?八重の望みを言ってごらんなさい」
「私が、望むこと…」
 言って、八重は一人考え込む。
もとより控えめな八重にはそうそう大層な欲望などなく。
かといって、唯一切望している身長に関しては(笑)、4人に頼んでどうなるものでもない。
 八重が4人に望むことといえば、それは…
「…」
 八重は、4人一人一人の顔をゆっくりと、じーっと無言で見つめる。
「「八重ちゃん…?」」
「七瀬…?」
 4人全員の顔を見渡して、八重はふわっと、優しく笑った。
その望みは、今ここにある。
けれど大事だからこそ、口に出してしまうようなことではないと思ったから。
ニッコリと笑って、その言葉は胸の奥にしまいこむ。
「ごめんなさい、なんでもないんですよ。
…えっと、望み、でしたよね。それじゃあ明日一日…」
「え?!明日一日って…まさか八重ちゃんまでにわちゃん独占権?!」
「言ってません!!!」
 驚愕の表情で身構える多汰美に即座に否定のツッコミを入れる八重。
即座に否定されてにわが微妙に落ち込んでいるが、それはさておき。
こほんと咳払いをして、八重は改めて口を開いた。
「ええと、そうじゃなくて、明日一日ですね…」


 翌日。
「なんや昨日はうまくはぐらかされた気がするなー」
 洗面所で顔を洗いつつ、真紀子と多汰美はぼやいていた。
ちなみに、にわは例によってまだ寝ている。
「そうやねぇ…まぁ、そこが八重ちゃんらしいといえばらしいんじゃろうけど」
「わがまま言うてくれるほど信頼されてないんかなー…」
 少し寂しげに呟く真紀子。
が、その後ろから、力強い否定の言葉がかけられる。
「大丈夫よ」
「わ!?おばさん!?」
 真紀子と多汰美の間の空間からにゅうっとのびた八重の母の顔に二人は驚きおもわず飛び退る。
「うふふ。わがままを言わなかったんじゃなくて、言えなかったのよ、八重は」
「やっぱり遠慮したっていう事ですか?」
「そうじゃないわ。…きっと、恥ずかしかったのね」
「「はぁ…??」」
 幸江の言葉の意味がわからず、二人の顔に数え切れないクエッションマークが浮かぶ。
そんな二人をニコニコといつもの笑顔で見つめながら、幸江は言った。
「とりあえず、これからもよろしくという事よ」
「「はぁ…」」
「真紀子さーん!多汰美さーん!おかあさーん!どうしたのー?ご飯冷めちゃいますよー!」
 未だクエスチョンマークの消えやらぬ二人に、居間から八重の言葉が飛んでくる。
真紀子と多汰美は顔を見合わせ…それから、どちらからともなくふっと笑った。
「…いこか」
「そうじゃね」



「今いくー!ちょう待っててや、八重お姉ちゃん・・・・・・・




下克上成功(笑)

おしまい☆






☆あとがき☆

  4コマ漫画のSSとはまた無謀なことを(他人事みたいに言うな)
しかもにわちゃんの誕生日でにわちゃん主役と見せかけて実は八重ちゃん主役だし(笑)
ホントは誕生日前とかから色んなエピソード入れようかとも思ったんですが、長くなるのもなんなので短くまとめてこうなりました。
いきなりにわちゃんの両親話が出てくるので唐突かも?
原作で出てきてないことから、どういう喋り方かとかもわからないので、何をプレゼントしたのかも、ご両親の口調もぼかして書いてますし。
そういえばトリコロはタイトルが毎回面白いですよね。
タイトルがオチになってたりして最後にもう一度タイトル見て「あぁそうか!」って爆笑したり(笑)
なので一応この話も最後まで読むとタイトルの意味がわかるようになっている、はず(汗)
とりあえず私にトリコロを教えた某マニアック帝王は「ずっと私の」のあとに続く言葉を当てて見せるように(そんな!(笑)
 あーでも出来はダメダメだなぁ。
どうにも私が書くとどんな作品に限らず、キャラがしつこいほどに想いを語りすぎるというか。
トリコロは多くを語らないけれど、そこににじみ出てくる優しさがいいんですが。
この話ギャグないし。
 ちなみに。
最後に真紀子が「お姉ちゃん」って呼んでますが、八重がわがままでそれを望んだわけではなくて、あれは真紀子のからかいです(笑)
あのあと「呼び方まで変えなくていいっていったじゃないですかー!」って八重に怒られるんですよ、きっと(笑)

2004/10/17