帰りたかった。
皆のところへ。彼女の隣へ。
閉ざされた心の中に、皆の声が届いたから。




母なる星に抱かれて side イルイ



「……」
 イルイ=ガンエデンは、静かで超越的な喋りとは裏腹に、『焦り』を感じ始めていた。
地球を強念の結界で閉ざし、その外側の異物を排除することによって平和な楽園を作り出す。
それでも人は争いを起こすだろうが、それはガンエデンと、ガンエデンが見定めた『剣』たちが収め、平和を守っていく。
けれど、ガンエデンが見定めた『剣』たちはそれを拒絶した。
楽園を拒絶するのなら、それはもはやガンエデンにとって異物。
排除すべき対象である。それ故に今の戦いに至っている。
 そこまでは、残念ではあるが仕方のないことだった。
しかし、問題は、そこから。
「……カナフ……!」
 イルイ=ガンエデンは小さく叫びをあげた。
3種のクストース、しかもオリジナルであるカナフが目の前で彼らの手によって倒されていく。
本来なら、力の差は歴然であるはずだった。
例え『剣』であろうと、本来の守護者であるクストースの方が圧倒的に上。
そのはずが、今まで以上の力を見せて向かってくる彼らの前に一機、また一機と倒されていっているのだ。
「何故……楽園を拒絶するのです……」
 地球の平和を望む心は同じはず。
だからこそ、自分は彼らを『剣』と定めたのに。
「仕方ありません……ガンエデンの力をもって、彼らにはその無力を悟ってもらいます」
 イルイ=ガンエデンは標的を近くにいた小隊へと定め、その力を解き放とうとする。


―――嫌!!!


「くっ」
 響いた声に、ガンエデンは舌打ちした。
解き放った力は確かに小隊を直撃したが、威力は予定の半分にも満たないだろう。
「イルイ……まだ邪魔をするのか!」
 そう、焦りの一因は、ここにもあった。
アイビスや、仲間たちの声で彼女が目覚めてしまったこと。
今のイルイの身体には、ガンエデンの意志と、ガンエデンに巫女と定められたイルイ=ガンエデン、そして記憶をなくして彼らと共に過ごした少女イルイの3つの意思が混在している。
本来なら一つであったはずの意思は、少女『イルイ』によって分かたれてしまったのだ。
『みんなのところへ帰りたい』。
そう望んでしまったイルイの意識は最早邪魔でしかない。
ガンエデンはその意識を消そうとしているのだが、イルイはしぶとく抵抗を続けている。
そして、その意識があるからこそ、アイビス達は彼女を助けようと更なる力を発揮している。
全てが、ガンエデンにとって悪循環だった。


―――もう嫌……お願いやめて、ガンエデン……
   これ以上私に皆を攻撃させないで……


「そうはいきません。ガンエデンに託されたかつての人々の楽園への渇望。
それを捨てるわけにはいきません。それが、ガンエデンの巫女としての使命なのですから」


―――私にアイビスの夢を閉ざさせないで。お願いよ……


 残酷だ、とイルイは思う。
「アイビスの夢はきっと叶うと思うよ」
そう言ったのは他ならぬ自分なのに。
その自分が地球を閉ざし、人類が宇宙へ出る道を閉ざそうとしているのだから。

「……。わかっているはず……
例え彼らの力がこちらを上回ったとしても、結果は同じ。
彼らの元に戻りたいと思うのなら、結界で地球を覆ったその後でしかありえないという事を。
……『ずっと一緒にいる』。それもまた、彼女との約束ではないのですか?」


―――わかってる…でも…



「アイビス……。私とずっと一緒にいてくれる?」
「え…あたしと……?」
「約束してくれる……?」
「もちろんよ。どうしたのよ。当たり前のことを聞いたりしてさ」
「…ありがと……それが聞ければ…………じゅう…ぶん……」



 それは、かつての約束。
ガンエデンに覚醒を促され、変わっていく自分に不安を抱えていたあの時。
自覚のないまま皆のとの別れを予感していたあの時に。
当たり前だと笑顔で言ってくれたアイビスに、どれだけ救われただろう。
本当に、文字通り。それが聞けただけで十分すぎるほどに嬉しかったのだ。
けれど、いや、だからこそ。
強大なるガンエデンの意思の元、朧だったイルイの声が、はっきりと力を取り戻す。
「例えこのままここで眠りにつくことになっても……。
もう側にはいられなくても。
アイビスは、ずっと私と一緒にいてくれるから……!」
「何をわけのわからないことを……
いい加減に消えろ、イルイ!!」
「消えるのはあなたよ、ガンエデン!
この世界にも、アイビスたちにも。神様なんて必要ない!」
 イルイが叫ぶ。
それは確信。
希望でも推測でもなく、確かな想いとしてイルイの胸にある。
マシアフ……ガンエデンの巫女としてではなく、イルイ個人として。
ずっと彼女達を見てきたから。
そして地球を守る強い想いを。
人と人との絆を。愛を。そして、勇気を。
この心に教えてくれたのは他ならぬアイビス達なのだから。
 だから今度は、自分が。
彼女達が教えてくれた勇気をもって、ガンエデンを抑えてみせる!
「アイビス……あとは……お願いね……」
「!!ばか……な?!」
 この瞬間、イルイの念は、完全にガンエデンを抑え込んだ。




「……!?動きが、鈍った……!?」
 アイビスは、ハイペリオンでバラルの園の上空を翔けながら呟いた。
アイビスの狙いはただガンエデンのみ。
クストースは他の仲間たちが抑えてくれている。
そして、常に相手の軌道を読んで行動する高機動戦闘を得意とするアイビスだからこそ、ガンエデンの動きが鈍ったことを敏感に感じ取っていた。
「イルイ……?」
 思わずその名が口から漏れる。
気のせいだろうか。今確かに、名前を呼ばれた様な気がした。
「……いや」
 気のせいでなど、あるはずがない。
思えば離れていた時も、名を呼ばれた気がしたことがあった。
あの時は気のせいだと思ったけれど、今なら確信を持って言える。
ガンエデンの意思に飲み込まれながらもイルイは自分に呼びかけてくれていたのだと。
そして、今のこのガンエデンの変化がイルイのもたらしてくれたものであるのなら。
今この時、このチャンスを逃すわけには行かない!
「マニューバーGRaMXsを仕掛ける……行くよ、ツグミ、スレイ!」
「了解だ……任せろ!」
「いつでも行けるわ、アイビス!!」
 二人から、力強い言葉が返ってくる。
モニタ越しの二人に決意を込めてうなずくと、アイビスは操縦桿を握りなおした。
「スロットル・アップ!」
 軌道を読む。加速する。
制御装置も利かないほどの超高速に身をさらす。
 夢のため、皆のため、地球のために。
そして何より、ガンエデンからイルイを助け出すために。
今はただ、全てを切り裂く流星となる!!
「いっけーーーーっ!!!!」
「!!!!」
 ハイペリオンが、ガンエデンを完全に捉える。
「フィニーーーッシュ!!!!!!」
 次の瞬間、ハイペリオンは、その全弾をガンエデンに叩き込んでいた。





to be continued...



↑の絵と一緒に投稿したお話。最終話イルイ視点ってことで(笑)
「ガンエデンを抑えているうちに私を壊して」と言ってたので、多分ガンエデンの内面でイルイも必死に戦っていたんじゃないのかな、と。
……性格違いすぎ?(汗)
ガンエデンの口調もわかんないし……ま、いっか♪(おぃ(笑)
そのうち気が向いたら加筆修正するかもです。
投稿失敗して画面キャプチャで保存してあった絵を投稿したんですが…キャプチャした時に画面がバグってて左上におかしな○があるのは最早諦めました(笑)
つか、絵自体微妙だし。
イルイは難しいです……難易度Sクラス(涙)
髪型も難しいし、いつも納得行く表情に描けないんですよ。
ちなみにcontinuedになってるのは別に続きを書くつもりでいるわけじゃなくて、ゲームEDへ続く、と言う意味でです。
2005/03/22