ツヴェルフ・アポステル



人類が居住可能な惑星を見つけては移り住むようになったのは、今から数世紀前の話
今では、辺境惑星にまで、その居住範囲を広げている。
しかし、その未来永劫続くかと思われていた繁栄は、
27年前の突然の『謎の災害』により終わりを告げる・・・


各惑星の情報管理、政治や法を司っていた中心惑星「デルタ」の突然の崩壊。
原因は、「新しいエネルギー開発の事故」「どこかの惑星の新兵器が暴走」など、
いくつかの仮説が騒がれたが、いまだに原因は分かっていない。
この災害により、各惑星は混乱に陥ってしまい、互いの状況が不明になってしまった。
それから、数年の歳月が過ぎた・・・・



辺境惑星ニカルナ・・この惑星も当然その影響を受けてしまった一つである。
現在は、周囲の2,3の惑星と貿易しながら、その生活が成り立っている。
ニカルナは、辺境とはいえ他の惑星と比べると、砂漠が多いことくらいしか欠点はないだろう。


その砂漠を街に向かって歩いている人影があった。人影は、
闇に同化しているいう表現が、ピッタリな黒い衣装で身を固めていた。
突然人影の目の前の砂が、少し動いたと思ったら、
砂の中から大きな影が、人影の前に、その姿を現した。
この惑星に住んでいる人間ならば、誰でも知ってる大型肉食生物「イーター」だ。


イーターのせいで、毎年何人もの旅人や商人が犠牲になる。
その容姿は、ムカデの大きいものなのだが、大きいものになると7,8メートルになり、生半可な武器は通じず、
一時期は賞金を賭けてまで、その数を減らそうとしたほどだ。
出会ったら、高い確率でやられてしまう――惑星の住民のなかでは、そんな考えが当たり前のものだ。


獲物を見つけた喜びからかイーターは、歓喜の声を出しているようにすら見える。一方の人影は、
全く動じてる様子も無く、ただイーターを見上げてるだけだ。 しかし、その状態も長くは続かない、イーターがその巨体とは、思えないスピードで、人影に向かっていく。人影は、まだ微動だにしない。
イーターの牙に捕らわれて、助かる生物などまずいない・・
イーターが接近するまでに、重火器で片をつける。それがこの星で、暮らしている人が考え出した唯一の方法だ。
ここまで、イーターが迫ってるのに、動かない人影を見れば誰もが、自らが死を望んでるようにしか思えないだろう。
そして、イーターの獰悪な牙が、人影のすぐ目前まで迫った刹那、人影は、”右手”を軽く薙ぎ払うかのように、振ったのだ。
その瞬間、イーターは動かなくなった・・・いや、正確には、動きたくても動けないだろう。
・・・バラバラになってしまったのだから・・・
そして、人影は何事も無かったかのように、また街へ向けて歩くのを再開した。



惑星ニカルナで、一番大きな街「ロイト・タウン」
この位の惑星の大きな街になってくると、かなり賑わってる筈なのに、
住民には活力が感じられず、喧騒もあまり聞こえてこない。
聞こえてくるのは、最低限の会話に、事務的な話ばかり。
まるで活気の無い、この街で、堂々と歩いてるものがあった。
”管理者”の忠実な部下・自動兵。
”管理者”は、その文字通り各惑星を「管理」する者のことで、その権限は、『謎の災害』以降、絶対的なものになった。
自動兵・半自律機動するロボット。
人と同じ位の大きさとはいえ、その戦闘能力は、軽く人を凌駕する戦闘能力を持っているので、逆らう者はいない。



そんな街を堂々と歩く自動兵を、建物の影から、睨む少女が一人いた。
年のころは、12,3くらいで、まだ幼い感じがするが、表情は、少女に似合わない思い詰めた顔をしている。
その手には、自動光銃を持っている。
自動光銃は、力のない女性や子供にも、使えるように反動も少なく、使い方も簡単で辺境惑星では、
未知の生物が多くこういった武器が護身用として多く出回っている。


確かに、自動兵といえども、自動銃が当たれば、ただでは済まない。
破壊するのも可能だろう。しかし、万が一に備え常に3体で行動するよう設定されているので、運良く1体を破壊できても、
他の2体に反撃されて、結果は悲惨なものになってしまうのは、誰の目から見ても明らかだ。
少女自身そのことに、気づいてるのかもしれない。
それでも、決意が変わらないのは、よほど後に引けない理由があるのだろう。
そして、一歩一歩自動兵が歩んで来る。「ここで焦っちゃいけない!通り過ぎたところを後ろから!」と少女は、
自分に強く言い聞かせて、銃を持つ手にも、自然と力が入り、
緊張して汗が出てきたのを手で拭い、チャンスを待つことにした。



自動兵が、通り過ぎて、向こうに行ったのを確認して、「今だ!!」少女は、心の中で大きな声を上げた!
銃を構えて、隙だらけな自動兵の後ろ姿に、照準を合わせる。
狙うは、動力部がある人でいう腰のちょっと上か、機能を司っている頭部の破壊だ!
少女は、そう考えて、頭部を狙うことにした。
「母さんと同じ殺され方をあなた達にも!」そう思うと、自然と頭部を狙っていた。



だが、少女が銃を使い慣れてないのは、素人目でも分かるほどだった。
渾身の力で、トリガーを引いたけれど、狙いは、真ん中の自動兵の頭部ではなく、右肩に命中した。
左右の自動兵が、即座に振り向き、腕に内蔵された、銃口を少女に向ける。
少女は、動かなかった――内心こうなることは、予想していたのだ。
「母さん・・・ごめん・・」と小さい声を発して、死を受け入れようとした瞬間
滑るように、”人影”が現れ、少女を抱えて建物の影に、逃げ込んだ。
少女は、事態を把握するのに、時間がかかった。
死を覚悟した瞬間に、命が助かったのだ。普通の反応といえるだろう。



そして、命の恩人の姿を見てみた。ロング・コートを着ていて、飾りけもなく黒一色。
ピッタリと手を包みこむ手袋も、闇の色に統一されている。
顔を覗こうとしたが、すっぽりとコートのフードを被っているため、見えなかった。
この状態から判別できるのは、背が高く体型から見て、どうやら女性のようだ。
「あっ、あの・・・」少女が恐る恐る口を開いた瞬間に、「ここで待ってなさい」
向こうから、素早い言葉が返ってきた。ちょっと低い声だけど、綺麗な声と少女は思った。
そして、女性は、建物の影を出て、自動兵が待ち構えてる表通りに戻っていったのだ。
少女は、ビックリした。まさか戻るとは思わなかったので、心配になり影から様子をそっと覗いてみた。
少女は、覗いてみて、何が起こったのか事態が全く掴めなかった。
自動兵がすでに一体動かなくなって倒れていたのだ。
動力部である腰辺りに、何かが刺した後があった。
そして、女性の両手に持っているものを見て納得した。



二本のナイフのような物を構えていた・・でも、ただのナイフではない。
刃の部分が、光のようになっていて、今までに見たことのない武器だった。
女性を左右で挟んでいた自動兵が、動きをみせた、左前方にいた自動兵の右腕の銃口が、女性に向けられた。
視覚センサが完璧に目標をロックしたと自動兵は確信し、腕に内蔵されたライフルを撃った・・・
しかし、次の瞬間、驚くべき反応速度で女性が動いた。
その後の女性の動きは、常人の目ではとても追いつけないものだった、弾丸をきれいに交わし、
すぐに自動兵との間合いを詰めた、自動兵は、目前に現れた黒い塊が今まで
狙っていた目標と気づいたときには、すでに機能を停止させられた。


もう一方の自動兵も事態を把握するのに時間がかかり、女性に銃口を向けた瞬間、
女性から投げられたナイフが一本頭部に刺さり、銃を撃つ間もなく機能を停止した。
少女は、驚きのあまり声が出なかった―――生身で自動兵と戦い勝つなど、信じられなかったのだ。
女性がこっちに向けて、ゆっくり歩いてきたので少女は、少し緊張した面持ちになってきた。
そして、女性が静かに、フードを脱いで少女は驚いた。
顔が整っていて、美人なのもあるけど、特徴的な髪と瞳に眼を奪われたのだ。
すごく綺麗な蒼髪で瞳の色は燃えるような真紅の瞳だった。

「・・・・なた・・・」

「えっ?」

女性から発せられた声が、思ったより小さかったため聞き逃してしまい少女は、聞き直した。

「・・あなた・・何であんなことをしたの?・・」

女性の疑問は当たり前だと少女自身思った。

「あの、もしよければ、あたしの家に来てくれませんか?」

「・・いいわ・・」

女性はあっさり了承してくれた、でも常に気だるそうに喋るのは、この人の癖なのかな?と少女が考えてると

「・・あなた・・名前は?」

名前を名乗ってないことに気づいた少女は、

「あ、あたしの名前は、カアルです。
あのっお姉さんの名前は?」

カアルは、勇気を出して聞いてみた。

「・・私?・・そうね・・リユって呼んでくれればいいわ・・」

「リユさん・・」

カアルは、リユの名前を呟いた。

「カアル・・とりあえず、あなたの家に行きましょう
ここは、いずれ警察・・いえ”管理者”の犬が来るわ・・・」

そう言われてカアルは、はっと気がつき

「こっちです!」とカアルは強い口調で、リユを案内した。



着いた所は、意外と広い家だった。中々この規模の惑星にしては整ってる方だ・・とリユは思った。

「・・じゃあ、聞かせてもらえるかしら?・・」

「は、はい」

ここまで巻き込んでしまったのだ――話さないわけにはいかないだろうとカアルは思った。

「あれは、1週間前のことです」

カアルの両親はこの辺りでは有名な名家で人柄も良く住民からの信頼も厚かった。
しかし突然、家に自動兵が押しかけて来て父親を逮捕していった。 逮捕の
理由を聞くと”管理者”の暗殺を企て、自らが”管理者”になろうとしていたと言われたらしい。
そして、強く抗議した母親を自動兵が射殺したのだ。
リユは、終始黙っていた・・・カアルが悲しみのあまり泣き出しても、
怒りに震えていても決して何も言わず黙って聞き続けた。


そして話が一段落ついたところで、初めてリユが口を開いた。

「・・・あなた・・・結局、どうしたいの?・・・」

「えっ!?」

突然投げかけられた質問にカアルは言葉に詰まった。

「・・・あそこで、私が通りかからなければ、
あなたはあそこで死ぬところだったのよ・・・」

「・・・そして、父親はまだ生きてるんでしょう?・・・
それなのに、あんな無謀なことを・・・」

リユが初めて感情的な声を出したのでカアルは少しビックリした。

「・・でっでも!あの時は、ああするしかないと思って!」

カアルは、自分の気持ちを分かってもらおうと強く訴えようとした。

「・・・あなたが母親の仇を取っても誰も喜ばない・・・
いいえ、むしろ悲しむ人しかいないはずよ・・・」

リユさんの言う通りだとはカアル自身感じていた。
それでも、やっぱりあの時は、感情に従って動くことしか出来なかったのだ。

「・・・それに自動兵は、”管理者”に従ってるにすぎない・・・
仇を討つなら”管理者”を狙わないとダメよ・・・」

カアルはその言葉に驚きを隠せなかった。”管理者”は、絶対的なもの。
そんなのは、年端もいかない子供でも知っている。
逆らえない、常に”管理者”に生かされている、それがこの惑星の現状だった。
その”管理者”を狙おうとは誰も思わない。それが生きていく為の手段なのだから・・
そんな常識を打ち破る発言をしたリユをカアルは、驚きの視線で見ていた。

「・・・あらっ?そんなに驚いた?・・・」

リユの問いかけにカアルはコクコクと首を動かすことしか出来なかった。

「・・・まあ、いいわ・・・どうせここの”管理者”に用があるのだし・・・」

「えっ?今なんて?」とカアルが聞こうとした瞬間
大きな物音と同時に十数体の自動兵が家に入ってきた。
どうやら今回は指示しているリーダー格の人間もいるらしい。
そのリーダー格の男が前に出てきて、大きな声で質問してきた。

「昼間起きた自動兵の破壊に、そこの女が関わってるらしいな?
悪いが一緒に来てもらうぞ」

「・・・断ると言ったら?・・・」

相変わらずダルそうな口調でリユが問い返すと

「そこのお嬢ちゃんのお父上が気の毒なことになるな」

なるほど、人質か・・・リユは察してカアルの顔を見てみた。
カアルは平静を装った表情をしているが心が
不安で押しつぶされそうなのが手に取るように分かった。

「・・・OK・・一緒に行くわ・・・」

リユは軽い口調で答えた。

「おっと、その前に・・・」

男が携帯していたバックから何かを取り出す。
取り出したものを見てリユは納得した。携帯用武器スキャンだ。開発されたのは、かなり昔の物だが性能は極めて高い。
対象が武器を持っているかどうかを判別するのだが、どんな武器を持ってるかまで分かってしまうのだから、
自爆テロの警戒や要人警護など様々な場面に活用されている。

「・・・そんな無粋な物を使わなくても渡すわよ・・・」

リユは腰の辺りについていた2本の棒の様な物を男に軽く投げた。

「ほう?これはクィラか!現物を見るのは初めてだぞ。」

どうやら、あのナイフのような物のことらしい。

「しかし、軍事惑星でもあまりお目に掛かれない物を何だってお前みたいな奴が?」

「まあいい、一応チェックさせてもらうぞ」

男はそう言うとスキャンをリユに向けた。

「うむ、他には何も持ってないようだな」

リユは大人しく連行されることにした。せっかくの向こうからの
招待だし上手くいけばカアルの父親とも接触できるかもしれない。
そして、彼らが乗ってきた車に乗せられ30分ほど移動したところで車が止まった。
その後は建物内の移動を繰り返して地下らしい所に連れられた。
その中で、独房と呼ぶにはあまりにも広い牢屋に入れられた。
中の臭いは最悪だ・・・どうにも表現しがたい臭いで満たされている。

「・・・ずいぶんとひどい扱いじゃない?・・・」

軽い口調で男に聞いてみると、

「悪いな、これも”管理者”さまの命令なんだよ」

「俺の仕事もここまでかな?後は”管理者”さまが直々に尋問に来るらしいぞ」

男の発言にリユの表情が少し変わった。

「・・・へ〜・・それは楽しみね・・・」

男は何も言わず去っていった。
リユは改めて周りを見て臭いの原因が分かった気がした。
辺りに無数の死体が落ちてるのだ。年月が結構経ったのもあるようだ。
そうしてると、一つの足音がこちらに向かって歩いてくるのを感じた。

「・・・どうやら、やっとご対面ね・・・」

リユが珍しく嬉しそうな表情を浮かべた。
そして一人の男がやってきた。年のころは二十代後半くらいで体型は平均的なものだろう。

「お前が自動兵3体を壊したのか?」

声は見かけによらず威圧的で相手を見下してる感じが伝わってくる。

「・・・いいえ、違うわ・・・だから帰らせてもらうわよ・・・」

冗談が通じない相手と分かっていると逆に冗談を言ってしまう。これがリユの性格なのだ。

「ふん、まあいい・・お前がどう言おうとお前がどうなるかは俺が決めれるのだしな」

「・・・そう・・こっちは、あなたが”ハズレ”で残念よ・・・」

「何!?ハズレだと!どういう意味だ!?」

強い口調で男が憤怒の表情を浮かべた瞬間

「ディムグさまーー!」

どうやら男の名は「ディムグ」というらしい、呼ばれてディムグが振り向くと一人の研究員風な男が走ってきた。

「た、大変です!反応が出ました!」

「何!?本当か?」

「はい・・しかし、まだ不安定なので確定には至りません。」

「いや、反応が出たということは可能性があるということだ。
俺も今からそっちへ行こう 先に戻っててくれ」

ディムグにそう言われると研究員風な男は走って戻っていった。

「残念ながらお別れの時間だ」

「・・・そう、もっとゆっくりしていけば良いのに・・・」

「お前の連れが優秀なおかげで、そうもいかなくなった」

「・・・連れ!?カアルのことね?あなたあの子に何をしたの!?・・・」

いつになく強い口調でリユが問い詰めた。
まさかカアルに何かするとは思ってもみなかったのだ。



「おまえは聞いたことないか?数十年前に滅んだ星『デルタ』で密かに行なわれていた”御使い計画”を」

リユの表情が一瞬曇ったのは部屋の明かりのせいではないだろう。

「・・・さあ?聞いたことも・・・」

「まあ、普通は知らないだろうな 冥土の土産に教えてやろう。
人類が様々な惑星で暮らしていくには、人類自身の進化いや強化が必要だった。
辺境惑星ともなれば様々な大型肉食獣、それに未知の病原ウィルスなど計り知れない危険が山ほどある」

「その中で生まれた計画が”御使い計画”だ」

「各惑星から集められた生物情報を素に色んな環境に適応できて、
なおかつ病気にもならない夢のような話だったのだが・・」

「そう上手くいくはずもなく、その”因子”を注入された者は大抵死ぬ
だが成功例がいくつかあったらしい。」

「その成功例の能力は、想像以上のものだったらしい。 だが、その成功例に『デルタ』が消されたという話も聞くがな」

リユの真紅の瞳がピクッと動いた。

「どっちにしろ今は”因子”が無いのだが、危険度を減らした”準因子”が裏で流れてるのさ 準とはいえ、これでも十分な力を得ることができる」

「とはいえ、これでも致死率は99%を超えてしまうので適合者が見つからないのだがな しかし、今見つかった」

「・・・それが・・・カアル・・」

ここにきて、リユが重い口を開いた。

「そういうことだ そして調整して俺の忠実な部下として働いてもらないとな
あいつの父親は、資質が無かったので期待してなかったのだが」

「・・・じゃあ、カアルの父さんは・・・」

ディムグはリユの周りを見てニヤリと笑った。

「お前もそうなるので安心するんだな。
精々逆らったことを後悔してくれ プレゼントだ」

そう言ってディムグが去ったと同時に、広いと思っていた牢屋の後ろの壁が大きな音を立てて開いてる。

「・・・なるほど・・これがプレゼントね・・・」

中からは前に戦った時より一回り以上大きいイーターが出てきた。
どう見ても自然界に存在するものじゃない、改良したのね。
リユがそう考えてると、イーターの牙が目前に迫っていた。
リユも驚くべき反応でこれを交わすが、前のよりもスピードが速い、
紙一重で避けれたけど、この限られた空間ではいずれ捕まってしまう。

「・・・悪いけど使わせてもらうわよ・・・」

そう言って”右手”を薙ぎ払い一閃した。
それは、イーターを切り裂き同時に牢屋まで切り裂いた。
そして、右手が淡い赤い光に包まれている。

「急いだ方がよさそうね・・・」

ディムグ達が消えていった方向へとリユは目指した。



一人雰囲気の違う男が回りの研究員達に何か尋ねている。
カアルは意識が遠いのに、周りの雰囲気が手に取るように分かった。
「今のところ順調です。このままいけば成功するかもしれません」

「そうか!そうか!その調子で頑張ってくれよ!」

研究員達の動きがますます慌しくなった。
カアルには何のことか分からない会話だが、無性に寂しくそして悲しかった。
あたしはどうなるんだろう?このまま死んじゃうのかな? そして今日会ったあの人のことを思い出した。
リユさんは、どうなったんだろう?無事だといいな。
そう思ってると周りが急に騒がしくなった。

「大変です!TYPE46イーターの生命反応が消えました!」

「何そんな馬鹿な!?あの女のクィラは保管室に移したのだぞ!?」

「・・・あなたのいう御使いかもよ?・・・」

カアルは聞き覚えのある声にすごく喜びを感じた。
扉を開けてゆっくりとリユが入ってきた。

「きさま!!きさまも準因子の適合者だったのか!?
だが俺だってそうなんだよ!」

そう強く叫ぶとディムグは、右手を大きく振った。
刹那、リユも右手を軽く薙ぎ払いあっさりとディムグから放たれた”力”を切り裂いた。

「なっ!?俺の”衝撃”が切られた!?」

「・・・その程度の力では、”プロトタイプ”には通用しないわ・・・」

「”プロトタイプ”貴様が!?はっ!笑わせるな!あれは何十年前の出来事だぞ!
貴様の年齢と合わないのは一目瞭然ではないか!?」

ディムグはそう言いながら研究員達に、リユに見えないように手で合図を出していた。

「・・・病原ウィルスの無効化・・・その副作用で不老になってしまった12人の・・ ”元”人間がいるのよ・・・」

カアルにはリユが泣いてるような気がした。

「ふん!そうか!まあどっちでもいいさ!これでも喰らえっ!」

ディムグがまた大きく右手振った。そしてリユもそれに合わせて右手を軽く振る。

「今だ!!」

その瞬間、ディムグが大声を上げ研究員がスイッチを押す。
シャッターが開いた音が聞こえたと思った刹那、リユは後ろにすさまじい殺気を感じ
常人離れした瞬発力で右に避けたが避けきれず右腕を何かの爪がザックリ引き裂いた。
リユは右腕を庇いながら体勢を立て直し、傷をつけた張本人を見て言葉を失った。
そこにいたのは、人の形をしているが明らかに人とは違う腕や爪、
歯というよりは牙になっている口、どこから見ても人ではなかった。

「・・・これは?・・」

リユが疑問の言葉を投げかけるとディムグは自信有り気に答えた。

「それは、人とイーターの合成物だ。
商品名はオーガ かなりの強さだぞ。
その右腕の状態で、俺とオーガの攻撃を防ぎきれるかな?」

「・・・あなたは最低ね・・・」

リユは冷めた視線をディムグに向けた。

「ふん!勝負は勝てばいいんだよ!いくぞ!」

リユの右腕の状態は誰の目から見ても、軽いとは言えない。
オーガとディムグが同時にリユに向かって駆け寄ってきた。
ディムグの”衝撃”は、この右手ではもう迎撃できないだろう。
撃ち合いをしても、こちらの”力”が押し返される。
だから避け切れない距離まで詰めて、”右手”を使うつもりだろう。
オーガの方は強いといっても生物は生物、十分に右手が通じる相手だ。
一瞬の判断でリユは、オーガに”右手”を使うことにした。
すさまじいスピードで迫ってくるオーガに、右手を薙ぎ払う。
オーガは完全に”右手”を喰らい原形を失った。
しかしそれと同時に、右腕に激痛が走った。
右腕はもう使えないのは、ディムグから見ても十分に分かった。

「これで最後だ!!死ねっ!」

ディムグが右手を大きく振った。
ディムグは勝ちを確信した。相手は避けることも防ぐことも出来ないのだから
次の瞬間、ディムグは何が起こったのか理解できなかった。
リユがディムグの放った力に対して、”左手”を向けた瞬間、自分が撃った”衝撃”が跳ね返ってきたのだ。
そして、そのまま10メートル位吹っ飛んでやっと止まった。

「な、なにが?起こったのだ?」

ディムグは自分の”衝撃”で致命傷だ。

「・・・勝負は・・勝てばいいんでしょう?・・」

リユの”左手”が蒼く輝いていた。

「ひ、左手も・・だと!?」

「”プロトタイプ”は、他とは違うのよ・・・
知らなかったのかしら・・・」

「な・・なんで、お前みたいなのがこんなとこ・・ろ・・に・・」

ディムグが息を引き取るのをリユは、いつもと同じ真紅の瞳で見つめていた。

「・・私はね・・他の”メンバー”を探してるのよ・・・
そして・・・・・・・・」

最後の方は誰にも聞き取れない小さい声・・・自分自身に言い聞かせる決意表明のような呟きだった。
リユはカアルのところに、走り寄って”左手”をカアルに近づけ一瞬左手の光が強くなったかと思うとカアルが目を開けた。

「リ、リユさーーーん!」

カアルは飛び起きてリユに力いっぱい抱きついた。リユも軽く抱擁してあげた。
カアルは、リユの胸元で泣き続けた。
カアルは、賢い子だ・・おそらく父親の死もうすうす気づいてたのだろう。
リユも今は、カアルを優しく抱いていた。
そしてリユは、気づいていた。力を使いカアルを起こした瞬間、
カアルの右手が光ったことを・・・
カアルが落ち着いたのを見計らって、リユが話を切り出した。

「・・・クィラを・・探さないと・・」

人前で、この”手”の力を使うのは騒ぎになるので極力避けたい。

「あっ あたし場所知ってるよ!保管室だって」

意識があやふやの時に、聞こえてきた会話を思い出していた。

「・・・そっか・・・じゃあ一緒に取りに行く?・・・」

「えっ!?うん♪」

カアルの表情がすごく瞬時に明るくなった。
そして、リユと手を繋ぎ一緒に歩いていく
後ろ姿は、仲の良い姉妹のように・・・





〜〜エピローグ〜〜



リユは次の目的地を準因子が出回っている元を探すことにした。
そうすることで、”誰か”に会えるような気がしたからだ。
しかし、彼女は、まだ旅立っていない・・・
ステーションで、少女と会話していた。

「・・・本当に一緒に来るの?・・・」

本人の意思を確かめるためもう一度聞くことにした。

「うん!・・ダメ?」

申し訳なさそうに、カアルがリユに問い返す。

「・・ダメってことはないけど、この前より
危険な目に会うかもしれないのよ・・・」

「それでも、ここで一人になるよりは、ずっといいよ!」

カアルは強い口調で訴えた。

「・・・そう・・じゃあこれをお守り代わりに持ってなさい・・・」

そう言って、リユはカアルに何か手渡した。

「こ、これってクィラ!?も、もらっていいの?」

嬉しさと驚きの表情でリユを見上げる。

「・・・いいのよ・・どうせ盗品だし・・・」

リユはいたずらっぽい笑みを浮かべた。
リユの笑みを見て、カアルも一緒に笑った。
そして一緒にしばらく笑いあっていた。
リユがゆっくり口を開いた。

「・・・使い方は、道中説明してあげるわ・・・覚悟しなさい〜・・・」

幼子を叱るような口調で、リユが言うと

「うん♪よろしくお願いします。リユお姉ちゃん♪」

カアルは明るい笑顔を浮かべて答えた。
こうして二人の厳しい旅は始まりを迎えたのであった・・・・




☆あとがき☆

はい。こちらは友龍のあとがき…というか、感想です。
秋桜さん、どうもありがとうございました!
面白かったですよ!しかもあんな短時間で書けちゃうなんて、ほんと尊敬です!
リユさん好みです♪(殴!)強い女性は憧れですから。(誰も聞いてない)
タイトルは…ドイツ語でキリストの12使徒のことです。12人の”御使い”にかけてみました。
これからの連載で出てくるものと信じて!(おぃこら)
…ごめんなさい、ダメダメですね(汗)。
何かいいタイトルを思い浮かんだ人がいたら教えてください。そちらに差し替えますんで。
曲は一応つけてみたんですが…いまいちしっくりこないです。
私ファンタジー系の素材しかつかってなかったからなぁ。他を開拓しないと。
そのうち音変えるか、消すかもしれません。
最後に秋桜さん、本当にどうもありがとうございました!