「そのために、君の力を貸して欲しい」
「え…?」
「僕の世界のほかの”力あるもの”は当然僕を阻止しにくる。それに、力の大半を分け与えたとはいえ神であるものを相手に僕一人戦うなんて出来ない。だから、こちらの世界の”力あるもの”を探していたんだ」
「まさか…」
「そう、君のことだ。この世界にきて僕がはじめて見つけた”力あるもの”が君だった。さっき、君の中に眠っていた力を解放しておいた。いつヤツらが襲ってきても大丈夫なようにね。今の君は常人を遥かに超えた運動能力に、回復力、五感をそなえているはずだ。あとは7人それぞれ固有の”力”に目覚めれば…」
「ちょっと待ってよ、勝手に決めないで!!私はまだあなたと一緒に戦うなんて言っていない!!」
 私は思わず叫んでいた。
私にさっきのような男たちと、戦えって言うわけ?
いきなりやってきて、勝手に力を目覚めさせて、そんな勝手なこと言われても困るよ…!
「君は自分の世界を救いたいとは思わないのか?」
「いきなり世界とか言われたって実感湧かないよ…」
 カイルの話は、とんでもない内容だったけど、嘘でないってわかる。
でも頭で理解するのと納得するのとは違う。
ほんの数時間前まで普通の生活していたんだよ?
できるわけない。
さっきだって、怖くて硬直して助けを呼ぶことすら出来なかったのに。
「戦う気がないのなら、好都合だな」
「!!」
 突如横合いからかけられた声。
冷たい刃のような鋭い声は、聞き覚えがあった。
再び硬直し始めた体を無理矢理に動かして、ゆっくりと振り向く。
そこには思ったとおり、さっきの銀髪の男がいた。
「え?!」
 そして、私は驚きに目を見開いた。
「お兄ちゃん!?」
 そう。男の隣にはぐったりとして動かない兄の姿があった。
「貴様…カリアス…卑怯な真似を…!」
「卑怯?よくわからないな。私は一番合理的な方法をとろうと思っただけだ。だが、人質の必要もなかったようだな…」
「そ、そうよ!私はあなたと戦ったりしない。だからお兄ちゃんを返して…!」
「光希?!」
 カイルが非難の目で私をみるが、気にして入られない。
カリアスの目的がカイルを阻止することなら、カイルに協力さえしなければ見逃してくれるはず。
 だが、カリアスの口から出たのは期待していたものとは別のものだった。
「そうか。ではこの男はこのまま返してやろう。どうせ世界が滅びるまでの命だがな。だが、お前には今ここで死んでもらう」
 そう言うと男は目をすっと細め、私の部屋でしたように、逆手に持ったナイフを顔の前に構えた。
「ど、どうして…。私はカイルに協力なんか…」
「こちらの世界の人間は感情的ですぐ気が変わると聞いている。今はそう言っていてもいつカイルに協力しないとも限らない。お前はすでに力を解放されたようだからな。放っておくことは出来ない。”力”に目覚める前に、死んでもらう」
「そんな…」
 力を解放したのなんかカイルが勝手にやったことなのに。
さらに言い募ろうとした私の手をカイルがぐいとひいた。
一瞬前まで私がいた場所を、カリアスのナイフが引き裂く。
「外したか…」
「この子を殺させるわけには行かない!」
カイルはそう言うとカリアスに向かって手をかざした。
と、突如として突風が吹き荒れカリアスを襲う。
その隙にカイルは私を連れてその場を離れた。
だが、直撃は避けたのだろう、カリアスがすぐに追ってくる。
それを認めてカイルは立ち止まり、私に向き直った。
「光希…今は戦えとは言わない。だがせめて逃げろ!このまま話が通じる相手じゃないんだ。ここは僕が食い止める!」
 それだけ言うとカイルはカリアスに向かって駆けた。
そのカイルに向かって今度はカリアスが手をかざした。
真紅の炎がカイルへ向かう。カイルは炎に向かって風を発し、それを吹き消した。
 すごい…これが”力”なんだ…。
しばし呆けそうになるが、慌てて我に返った。
こんなことしてる場合じゃない、逃げないと!
私は最初にカリアスが立っていた場所にまだ倒れたままでいる兄の元へと駆け寄ろうとした。
兄を置いたまま逃げることなんか出来ない。
 だが、そのそばへカリアスがカイルの風の攻撃によって吹き飛ばされてきた。
木に激突して地面へと滑り落ち、一瞬動きを止めるカリアス。
そこへカイルが間髪入れず2撃目の風の刃を放った。
確実に当る…!
そう思った瞬間、カリアスは思ってもみない行動に出た。
そばに倒れていた兄の体を掴んで楯にしたのだ。
「しまった!!」
 カイルが叫ぶ。
風の刃の直撃を受け、今まで意識を失っていた兄の目が苦悶に大きく見開かれる。
そしてまた、目を閉じた。その目はもう二度と開かれることはない。
「嘘…。お兄ちゃん…?」
 私は呆然と立ち尽くした。
今、何が起こったの…?こんなの、嘘だよね…?
そんな私を他所に、カリアスは何事もなかったかのように兄の体を投げ捨てると、つぶやいた。
「人質として使うはずだったが…こんなところで使うことになるとはな。まぁ役には立ったか」
 それを聞いて私の中で何かが切れた。
使う?役に立った??それだけなの!?
「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
 全身の血が逆流するかのように激しく駆け巡る。
 私は何を考えるよりも早く、カリアスに向かって突進していた。
「逃げずにつっこんでくるとは…やはりこの世界のものの考え方はわからないな。だが、好都合だ」
 カリアスは私に向かって手を軽く振った。
炎の龍が私へ向かって伸びる。カイルが風で吹き飛ばそうとしたが、間に合わない。
 私はカリアスが放った炎に向けて手をかざした。
かざした手の先に一瞬にして巨大な氷柱が誕生し、炎がぶつかる。
「水の力か!!」
 カリアスが驚きの声を上げるのが聞こえる。
氷柱が一瞬にして溶けて辺りに水蒸気が立ち込める。
常人ならそれだけで火傷する所だが、今の私にはどうということはなかった。
私は水蒸気に身を隠しながら半ば溶けかけた氷の上を飛び越えて一気にカリアスとの距離を詰める。
 だが、カリアスの行動は早く、すぐにナイフを構えると、飛び込んできた丸腰の私に向かって攻撃を繰り出した。…速い!!
『ドシュッ!!!』
 刃が肉に食い込む鈍い音がする。
刃を伝って滴る鮮血が大地を朱に染める。
顔にとんだ血の暖かさが妙な気分だった。
「…かはっ…!」
 血を吐いて、カリアスはそのまま息絶えた。
私の持った剣に貫かれたまま。
私は無表情でカリアスから剣を引き抜いた。そしてそのまま黙って兄の元へ向かう。
「まさか…君は”ファースト”だったのか?!」
 驚愕の表情でカイルが私を見つめている。その言葉に反応して私はカイルを振り返った。
「…”ファースト”?」
「神の力を得た7人の中でももっとも多くの力を受け継いだ、7人の核となる存在。一番特殊な力の一部を分け与えられたもの…。
そう。神の持つ、”創造の力”を。」
「創造の、力…」
 私は手にした血塗れの剣を見ながらつぶやいた。
炎を防いだ巨大な氷柱も創造の力があったからこそ出せたのか。
そしてカリアスのナイフが届く寸前、私は無意識にこの剣を”創造”し、カリアスを貫いた。
丸腰だったはずの私がカリアスにやられなかったのはそのせい。
ナイフと剣のリーチの差で、カリアスの刃は私に届かなかったのだ。
役目を終えたからなのか、私の手の中で剣が消えていく。
残ったのはカリアスの血に染まった赤い手だけだった。
 私は倒れている兄の体を抱き起こした。
まだ暖かい。けれど、その命の灯火は確実に消えていた。
もうあの優しい笑顔は見られない。声を聞くことも出来ない。
もし…もし私が最初から戦っていれば兄は死なずにすんだだろうか…?
「カイル…」
「…なんだ?」
 気遣うような、控えめな声でカイルが答える。
私はまたそっと兄の体を地面に横たえると、立ち上がってカイルを見つめた。
「私は戦うよ。こんなゲームをはじめた神様なんか、絶対許せない!!」
 自分達の支配欲のためだけに、命をもてあそんだ造物主。
被創造物だからといって、黙ってなんかいられない。
 固い決意とは裏腹に、頬を涙がすべり落ちていく。
これからはもう、泣かずに戦い続けなければいけない。
きっと私を待っている戦いは、泣いてなんかいられるほど、簡単な戦いじゃないから。
 だから、せめて今だけは。
最後の涙を流そう。この悲しみのままに涙を流し尽くそう。
そして、涙が涸れ果てた時、私の戦いは始まる――――。











END






☆あとがき☆

ごめん、秋ちゃん。
ありがちな上に展開が微妙に少女漫画っぽい(汗)。
しかも長い(爆)。
ここにでてくる天秤世界も中学の時考えてたネタです。
舞台はファンタジーだったけどね。
キャラもいまいち、かな…。書き終ってもまだ性格つかめてないです(汗)
秋ちゃん好みのキャラじゃないことは確実にわかってるし(笑)。
とりたてて自分好みのキャラでもないんだけど(笑)。
大体主人公、状況に流されてばっかの上に後半「え?」とか「まさか」とか聞き返すようなセリフばっかです(苦笑)。でも一応芯は強い子のつもりです。
後半がかなり苦戦しました。
やっぱり戦いの描写がかけない(泣)。
しかも光希の兄を死なせることはかなり最初から決めてたんですが(ひど!)、どうやって死なせるかが…。で、あんなにあっさりになっちゃいました。

では一応簡単な設定をば。

光希(本名:沢渡光希)
17歳。高3。
家族構成などは作中のとおり。
”創造の力”って言うと一見なんでもありっぽいですが、あくまで神の持つ”創造の力”の一部だけなのであんまり複雑なものは出せません。メカとか生き物とかはまず無理です。また、出せるのは手の先にだけなので、仮に氷の刃とか出しても相手に飛ばしたり出来ません。要するに攻撃魔法みたいなことは無理なわけです。
その点では他の”風”や”火”の力を持つものの方が戦闘向きともいえます。
きっとこの後仲間を探す旅において「野宿したいけど鍋がないから鍋出してくれ」とか「雨降ってきたから傘出してくれ」とか便利屋さんのように使われるのでしょう(笑)。…って、主人公がそれでいいのか!?(笑)

カイル(本名:カイル・アリシマ)
18歳。
”向こうの世界”の”風”の能力者。
向こうの世界とこちらの世界の人間のハーフ。
戦闘もこなせるけれど本当は頭脳労働のほうが得意。
多分光希の兄を自分の力で殺してしまったことはこの先彼にとって重くのしかかってくるでしょう。
実は”向こうの世界”に姉が一人いるが、全く頭が上がらない(笑)。
ちなみに声のイメージは某グリーンリバーライトさん(笑)。

一番不遇なキャラって光希の兄かも。
だって名前すらないし(笑)。
しかもあっさり楯にされてお悔やみ…。か、かわいそうすぎたかも??(汗)
あ。ちなみにもちろんこの話、続きはないですから。
それではこんな駄文読んでくれてありがとうでした!


2002/10/22



☆あとがき2☆
秋桜さんのリクで光希ちゃんの絵を描いたんで入れて見ました。なんか私最近このパターン多いなぁ〜(笑)

2002/11/23