この話は、親愛なる友ちゃんに捧げさせていただきます。
この話は、文明と「愛【AI】」の話。
てっちゃん(語尾上がり)の未来予想図・・・・
一つ警告させていただきます。
この物語は、あまりキャラクターに思い入れをしないで下さい。
あくまで客観的に見て欲しいと思います。
さて、どうぞ。






この世界は
かんぜんなる
『キカイ』ヲテニイレタ。


人類は孤独だった。
自分たちと対等に話せる、人類以外の存在が欲しかった。
そして、機械に目を付けた。


狂気の天才と呼ばれた男・レザード。
彼の興した大偉業・・・・

それにより、
町は荒廃、
人々は
荒れ
失い
壊れた。



機械が『AI〔愛〕』を手に入れる時



15年前。
当時の彼は22歳の新米の機械工学者だった。

ここは食堂らしい。
会社の制服のマントを着た人間がたくさんいる。
レザードが4人ぐらい掛けられる食卓の椅子に座った。
同僚の青年・・・すでに座っていた、黒髪の少々ごつい・・・・
マルストが話しかける。
「よう、今日のご飯はなんだい?」
レザードと呼ばれた、青黒い髪の青年。
レザードは少しにやりと笑うと、
「フフフ・・・今日はなんとSランチだ!」
と嬉しそうに言った。
「ほう!結構高いやつじゃないか?臨時収入でも?」
「ああ。500M(マニー。お金の単位)拾ったんだ。」
「それは!良かったな。」
そんな普通の会話をしていたとき、また同僚の女性が座った。
「こんにちはっ♪」
「おお、天才お嬢様の登場じゃないかい。」
彼女は、ふん、と鼻を鳴らす。
マルストが話しかける。
「なあ、レザード。」
「やあ、リリフォリア。」
レザードがにっこりと笑って言う
。 ぷーっとふくれ顔をして、リリフォリアと呼ばれた女性は言った。
「だから、リリーって呼んでよ!」
「ああ!・・・ゴメン、リリー。」
マルストが会話に割ってはいる。
「まあまあ、リリー。レザードに悪気はないしな。」
三人はわいわいと話していた。



ここは機械工学者の全てが憧れる、
「マウントサークル」
と言う機械開発専門の会社。
世界でもっとも高度な機械を作り続けてきたこの会社は、
かなり以前から世界中の機械工学者の憧れだった。
人工皮膚、スーパーリニアモーター、完全に近い義手・・・・
その他、いろいろ。

この会社は毎年3人ずつしか社員をとらない。
それが、『憧れ』の理由。
一般市民ではとても入ることができない。
選りすぐりの『エリート』のみが入ることができる。
まさに、憧れ。

そして、今、この会社は、全世界が注目するプロジェクトを始めた。
機械による、『人間の創造』。
何世紀も前から人類の理想だった、
『ロボット』
を造ろうというのだ。
すでに人間と全く同じ外見のロボットはいたが、
全てに共通して『感情』はなかった。
あるのは、『プログラム』のみ。
例えば、
ロボットにとって、
『愛』とは、
『愛しています』
という言葉を発するプログラムに過ぎないのだ。
しかし、マウントサークルは、人間と寸分変わらぬ
『機械』
を造ろうとしている。




レザードは反対だった。
レザードはかなり新米にしては優秀だったので、
このプロジェクトに推薦されたが断った。
何故なのか?
人類の昔からの夢だったではないか。


『AI』
つまり、
『人工知能』
の意味。
東洋の「ローマ字」で読むと・・・
『愛』

これは、何かの警告なのだろうか・・・・
レザードにはそうとしか思えなかった。



食堂でぼーっとそのことを考えていたレザードに、リリーが話しかけた。
「おーい?レザード?元気ですか〜?」
「は?あっ・・・はい?」
レザードが『突然現実世界に帰った』せいでうろたえる。
「イヤ、何でぼーっとしてんのさ?」
「ああリリフォ・・・いや、リリーちょっと考え事をね。」
リリーはまたぷーっとして、
「また間違えそうになったでしょ!『レザーディアスさん』!!」
「その名前で呼ぶなっての!」
レザードとリリーの会話を聞いていたマルストは、ふーっとため息をついて、
「恋人みたいですぜ、坊ちゃん、お嬢。」
とつぶやいた。
ボッ。
二人の顔が赤面した。



今年の合格者の内の、
『レザード』と『リリー』は、
結構に良い容姿をもち、家柄も良く、さらに
入社試験で1浪もせずぶっちぎりの成績を得て、
会社にはいったあとも
かなりの手際の良さ、実行力、理にかなった理論を持っていたので
注目の的になっていた。

反対にマルストは3浪して25歳。
この会社で3浪なんてかなりいい方なので、
本来マルストも注目されるべきなのだが、
残りの二人にかき消されていた。



3人はまだ食卓で話していた。
タコ殴りにされたらしくマルストはぼこぼこだったが、
楽しそうに3人で笑っていた。
食事の時間が終わるギリギリまで3人はここで話している。
楽しいから。
周りに人がほとんどいなくなったとき、
マルストが突然真剣な顔になった。
「なあ、俺、結婚するんだ。」
リリーはそのあざたくさんの顔で言われてもシリアスになれないナァ、とか思いながらも、
「マジで?相手は?おめでとう!!」
と言った。
「おお、それはめでたいじゃないか。」
と言った。
マルストは
「ありがとう、相手はお前らの知らない人だから名前は出さないが、いい人だぜ。
一ヶ月後の今日結婚するから、そのときには結婚式に呼ぶからな。」
嬉しそうに言った。



食事の時間が終わりそうだったので持ち場に戻ることにした。
リリーは移動機械科なので、方向が違う。
マルスト、レザードはプログラム科。
時間がないので少し駆け足で行った。
半分走っているレザードにマルストは話しかけた。
「なあ、レザード、いつリリーに告白するんだ?」
レザードは迷っていた。
「好きなら言わなきゃ何にもならんぜ・・・・」
「・・・・・今のままでも結構いいんだよな・・・・・」
レザードは下手なことを言ってこの関係を失うぐらいならば、
このままでもいいな、などと思っていた。
楽しいから。



そのころ、新しく創設された
「人工人間科」
の運営は難航していた。
「義手・義足科」
「プログラム科」
「移動機械科」
「生物機械科(人工皮膚科含む)」
「労働機械科」
などのエリート中のエリートを選りすぐって行っているプロジェクトなので、
失敗は許されないが、どうしてもうまくいかない。
特に「AI」の作成。
人工知能・・・・
それはまさに神の領域。
社長自ら企画した、神を越えるプロジェクトだった。

プログラム科から人工人間科に移った人の一人がぼやいた。
「やっぱり、天才が必要だよな・・・・・」
そのぼやきをたまたま聞いた社長は、
「天才・・・・レザードか。」
そして、にやりと笑った。



レザードは何も変わらない日々を送り続ける。
優秀なレザードは人気者だし、
何よりリリーとマルストといる時間が楽しかった。
休日は暇でどうしようもなかったが、ぼーっとしていた。
リリーに告白する勇気は結局無かったが、
楽しかった。
しかし、そんな平和な日常に、魔の手が忍び寄る。



マルストの結婚1日前。
リリーもレザードも、もちろんマルストも浮かれていた。
しかし、悪魔はそんなときにやってくる。
「移動機械科」は、
現在「ホバークラフト・カー」を造っている。
若手のリリーを中心に、計画は順調に進んでいる。
プロトタイプはほぼ完成し、試しに走行させることになった。
その日が、今日。
昨日の点検では、問題は全くなかった。
いつもの食堂で、3人が話しているとき、リリーが自慢した。
「今日の午後にね、私が設計して、細部まで決めた、【ホバークラフト・カー】を
試走行するんだよ〜!」
「ほう、どんなものなんだ?」
レザードが興味を示す。
「要は浮かぶ車だよ。これなら海、山、舗装のない道、どれでも進める。すごいっしょ!」
マルストとレザードは興味津々で聞いていた。
誰も成功を疑っていなかった。
リリーが失敗するはずがない。
誰もがそう思っていた。

食事の時間が終わる間際、リリーは、
「ねえ、マルスト明日結婚でしょ!明日結婚式行くからね!おめでとっ!!」
「ああ、ありがとうっ!お前もホバー何とか、頑張れよ!!!」
「うんっ!!!じゃね!」
「じゃあな!!」
ついでにレザードも
「じゃあな〜。」
と言った。



その日、レザードは
車を作る機械のプログラムを組み立てている途中、
「おれもいつかリリーのホバークラフトを組み立てるプログラムを作ったりするのかな?」
とつぶやき、くすっとわらった。
そしてそれをマルストに話そうと思った。
「なあ、マルスト・・・・・・」
そのとき、ドンドンとけたたましい音を立ててドアがノックされた。
マルストは、
「レザード、話は後だな。
どちら様ですか?」
そう言い、ドアを開けた。
息をハアハア切らしながら一人の研究員が入ってきた。
レザードの顔を見て、苦しそうに、しかし急いで言葉を発した。
「れ、レザードさん、ですか!!!?大変、だ!!
ホバークラフトが、爆発、した!!!リリー、さん、リリーさんが!!!」
レザードが血相を変えてそいつにつかみかかった。
「リリーがどうした!!!」
レザードの脳裏に最悪の予想が浮かぶ。
「今にも死にそうな大怪我をして病院に運ばれた!!!!」
マルストがつぶやく。
「マジかよ・・・・マジかよ!!!!!!」
最後は叫んだ。
レザードは最悪の予想が当たったことを感じ、
「その病院はどこだ!!!!」
と叫んだ。



普通早退するときは早退報告書を書くのは決まりだが、
そんなのは無視して二人は出ていった。
電光石火の勢いで病院に向かう。
「レザード、車の免許は?」
マルストが叫ぶ。
「持ってる!!会社の車を借りるぞ!!」
会社専用車庫にある小型車を半ば奪うように借りる。
二人は飛び出していった。

車道は通りが少ないわけではないが、
するすると抜けるようにしてもの凄い勢いで一つ車が走っている。
交通制限ギリギリの速度で走っていった。
途中で少し隣の車が掠る。
向こうは怒っているようだが無視して走った。
二人は無言のまま走っていった。
無言の重圧は苦しい。
考えたくないことが頭に浮かぶ。
しかし、話題が浮かばなかった。



二人はリリーの病室に駆け込んだ。
「リリー!!!!!」
リリーは・・・・
顔に白い布がかぶせられていた。
医者らしき人が、こちらを見て、悲しそうに首を振る。
「・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!!!!!」
マルストは顔をしたに向けた。
涙が光った。
唇をかんでいる。
血がにじんだ。

「ハハハハハ・・・・そんな・・・・・嘘だよ・・・・・・・
なあ、リリー・・・嘘だと言ってくれよ・・・・リリー・・・・」
レザードはベットでぐったりと寝ているリリーにすがった。
ヒヤッ。
生気を感じないその冷たさは、レザードを狂わせる。
「なあ、リリー・・・・
・・・・・好きだったんだ、リリー。伝える勇気がなかったんだ・・・・・
君が好きだったんだ・・・・けどね・・・・・
それ以上に失うのが怖かったんだ・・・・・
なのに・・・・・なのに!!!!!!!」

うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!
叫び声とも、泣き声とも、うめき声ともとれる大声を出し、レザードは泣き崩れた。
内容を理解した医者が悲しそうに目を伏せる。
ハラッ。
リリーの顔にかかっていた布が落ちた。
そこには、爆発により焼けただれたリリーの顔があった。

レザードはそのとき感じた。
自分が崩れ落ちるを。
ガラスの板のように、がらがらと音を立てて崩れ落ちる。
天才科学者?学歴?お金?
リリーがいなければ意味など無いではないか。
いや、リリーがいない世界など意味はないのではないか?



誰にも知れない内に、レザードは姿を消した。
マルストさえ知らなかった。
どこに行ったのか。

レザードは酒に浸った。
元々酒に強くないのに、これでもかと言うほど飲んだ。
酔っている間は苦しくなかった。
苦しくて仕方がなかった。
きっと将来役立つだろうと思ってためた金をつぎ込んだ。
マウントサークルに顔も出さなくなった。
溺れるように酒を飲んだ。

2週間結婚が先延ばしされたマルストの結婚式にもレザードは現れなかった。
心配したマルストや研究員は、レザードを血眼になって探した。
しかし見つからなかった。



一ヶ月後。
突然レザードは会社に現れた。
レザードが帰ってきたという知らせを聞き、誰もが喜んだ。
そして、レザードに挨拶をしに行こうとした物は、皆驚いた。
レザードは、変わっていた。
さらさらだった青黒の髪は白くごわごわに変色し、
綺麗だった制服はボロボロ制服になっており、
目は虚ろで充血し、
猫背になって、
酒臭かった。
昔の面影は残っていて、そこまで醜くはないが、
・・・・同じ人物には見えなかった。
社員書を持っていたので本人に間違えないが。
マルストはレザードに向かって叫んだ。
「レザーーーーーーーーーーーード!!!!」
レザードはマルストを見たが、無視して迷わず社長室に入っていった。


社長はここにレザードが来ることを予期していたごとく、
「やあ。来ましたか、天才君。」
と言った。
「・・・・・人工人間プロジェクトに入りたい。」
がらがらになった声でレザードは言った。
「ほう。やりたくない、と言っておったのにな?」
社長は少し皮肉っぽく言ったが、レザードは無視して続けた。
「その代わり、外見・性格のモチーフにリリーを使う。」
社長はフフフ、と笑った後、
「なるほど。良かろう。認めた。お前をプログラム班班長と、全体の総チーフに任命しよう、」
「ありがとうございます。」
社長がにやりと笑ったことにレザードは気づかなかった。



外見が変わってもレザードはレザードだった。
言葉に生気を感じないが、きびきびと作業を進める。
AIのプログラムはほとんど全てレザードが請け負った。
もの凄い勢いでPCにプログラムを打ち込んでいく。
覗いてみると、「一般市民とは頭の出来が根本から違う人々」でも全くわからない文字列が並んでいる。
すでに、このプログラムはレザード一人の物だった。
その姿を見て、誰もがこういった。
「狂気の天才」
と。



いつもの食堂。
レザードが一人で食事をしているところに、マルストが来た。
何事もないようにレザードは食べ続ける。
「おい、レザード。」
「・・・・・どうした?」
冷たく、生気を感じない声。
しかし、まだちゃんとマルストのことを考えてはいるようだ。
「お前はこの一ヶ月、何をしていたんだ?」
「・・・・・酒浸りだった・・・」
顔色一つ変えず、蒼白の顔のまま言う。
マルストはレザードの様子を心配していた。
しかし、それ以上に怖かった。
天才が狂うことの恐怖が。
「それと、もう一つ。
お前、AIを造ることに反対していただろう。何故プロジェクトチーフに?」
マルストの頭の中には、ある一つの嫌な答えが生まれていた。
「フフフフフ・・・・決まっているだろう。
リリーさ。リリーを造るんだ。
そして、いままでつたえられなかった「思い」を・・・・ハハハハハ!!!!!」
壊れた笑い方に、マルストは以前のレザードを感じることはできなかった。
「お前は壊れてしまった!リリーと同じ物を造っても、
それがリリーでないことはわかっているのだろう!!」
マルストは食卓に手をたたきつけるように言った。
この食卓は、3人でずっと使ってきた、食卓・・・・・。
「確かに、今までどんな優れたプログラムでも、人間を越えることはできなかった・・・・
しかし、私は・・・人間を越える必要はない。『人間でいいんだ。』」
マルストの脳に電撃が走ったような感覚が起こる。
そのレザードの一言は、その場の全ての人々を戦慄させた。
「リリーの脳の情報を、全てプログラムとして機械にプログラミングするのさ!!!
そうすれば、リリーと同じ動作、記憶、全てが手に入る!!!
俺がしたいのは、『告白』だ!!そのためなら神をも超えるさ!!!!」
レザードの高笑いが響いた。



レザードの一言で、プログラミングの内容が少しわかった人が出てきた。
あれは、リリーの記憶、能力、技量など、全ての脳の情報。
レザードがその情報をどこから入手してきたか気になった研究員が聞いた。
「レザードさん、その情報はどこから手に入れたのですか?」
「ああ。リリーの脳細胞を培養したのさ。
その脳から情報を取っただけだ。」
さらりと言った。
その言葉にも、人々を震撼させる力があった。
そして、誰もが口々にこういった。
「人はここまで狂うことができるのか・・・・・?」
と。



そのとき、マルストは情報を集めるのに必死だった。
真実を知れば、レザードも元に戻るかも知れない。そんな期待だった。
何故、リリーのホバークラフト・カーが爆発したのか。
誰もがリリーの失敗を予期しなかったように、
完璧な仕上がりだったとリリーと同じ科の人は語った。
「なのに・・・何故・・・・・・」
そして、実験に居合わせた人からも、話を聞いた。
そのときの死者は試し乗りをした人と、リリーのみ。
残りは軽い怪我だった。

上手く飛ばないことをリリーに訴えた運転手に、リリーは駆け寄っていってメンテナスをした。
リリーが作業を始めてしまうと、他の人には出番がない。
遠くで見守っていると、リリーの声が聞こえた。
「私がつなげた配線と明らかに違う!!
ああ!!しまった!!!!みんな!!!伏せて!!!!!!!!」
そして、大轟音とともに閃光。
一瞬何が起こったがわからなかったが、一つだけわかることがある。
リリーが危ない。
すぐに救急車が呼ばれた・・・・・

涙目になりながら、当事者が語ってくれたことに、
マルストは愕然となった。
【私のつなげた配線と明らかに違う・・・・・】
つまり、リリーは〈殺された〉可能性があるのだ。

警察は単なる事故と判断した。
「どうなのかは、きっと俺が暴いてやるぞ・・・・・・」
目的は、『レザードのため』から、『リリーのため』へと変化していった。
しかし、その復讐に燃える眼差しに、奥さんは入っていなかった。



あれから三ヶ月が過ぎた。
レザードのプログラミングは完成した。
ボディーパーツももう少しで完成する。
いくらパーツをリリーにすることにより作り直すことになったとはいえ、
その道のプロフェッショナル達である。
作業が早い。
「後・・・・三日だ・・・・
後・・・三日で悲願が達成するぞ!!!!
ついにだ!ついにだ!!マルストも呼んでやろう!!やったぜ!!」
その喜び方は、子供にも似て。悪魔にも似て。



三日。この間には、いろいろなことがあった。
マルストは、ついに確信的な情報を手に入れた。
そして、その内容に戦慄した。
全ては・・・・社長が・・・・・・
レザードに事の顛末を話そうと、レザードを探す。
廊下で、レザードの影を見つけ、
「レザードーーーー!!!」
と叫んだ。
レザードが振り返る。
今までの生気のない顔からは感じられなかった、歓喜の溢れる顔をしている。
その顔は綺麗だったが、その歓喜の内容を知っている人からすれば、恐怖でしかなかった。
「マルスト!探してたんだぞ!!こっちに来い!!やっと!!!やっと完成したんだ!!
お前にも見せなきゃ!!後5分で起動だぞ!!」
その限りなく嬉しそうで、怖い笑顔に言葉を失ったマルストは、
ついていくことしかできなかった。



カプセルのような物の中。
リリーと同じ顔をした『物』が寝ていた。
液体に浸されたカプセルの中。入院患者服のような服を着ている。
立会人は山ほどいる。
と言うか、全科からほとんどの人が見に来ている。
前にいる、レザード、マルストに、社長。

「ハッチを開けます。3秒前。」
レザードは相変わらず嬉しそうな顔だったが、
何処か心配そうな顔もしていた。
その心配そうな顔は、失敗をおそれる顔と言うよりも、むしろ、成功をおそれる顔だったのかもしれない。

「2秒前。」
マルストは社長をにらんだ。
殺気のあふれる目をしているが、社長は気づかない。
リリーを殺したのはこいつだ。
情報はあくまで情報。
ホントかどうかはわからないが、
何故か嘘だとは思えなかった。
その殺気の目が、奥さんを遠ざけているとも知らずに・・・・・・

「1秒前。」
社長。
全ての元凶。
何故こんな事をしたのだろうか。
その理由。
彼もまた、妻と子供を病で失っていた。
そして、その悲しさから代わりを手に入れようとしたのだ。
そして、そのわがままが多くの人々を苦しめたことも知らずに。

「ハッチが開きます。」

カパッ。
ハッチが開くと同時に、リリーが目覚める。
上半身を起こし、周りを見渡した。
そして、レザードとマルストの存在に気づく。
「ねえ、レザード、何が起こっているの?
ありゃ・レザード、ずいぶん白くなって???」
混乱しているリリーは、全く『生きているのと変わらない』様子で聞いた。
ワアッ!!
周囲から大歓声が響く。
その大歓声は、実験の成功と、リリーの復活の『喜び』と、
レザードへの、『恐怖』で成り立っていた。

レザードが上半身だけ起こしているリリーに、駆け寄って跪いた。
一瞬で静かになる。
「なあ、リリー。
ずっと・・・・・好きだったんだ・・・・一言はなした瞬間から・・・・・ずっと・・・・・
ずっと・・・ずっと・・・・・・やっと告白できたよ・・・・・」
うつむいたレザードの目から涙が流れる。
リリーの顔が赤面する。
周囲に見られている恥ずかしさと、嬉しさからだろうか。
「・・・・・ありがとう。うん・・・・私も・・・・・・」
ボソボソと恥ずかしそうにリリーが言った。

狂気の天才に似合わない
その台詞は
全ての人を
感動させ
その場を包んだ。




ここまでで物語が終われば感動のフィナーレでしょう。
しかし、物語は終わりませんでした。




いつもの食堂。
久しぶりにそろう三人。
誰もがリリーを『人間』としてみていた。
機械ではない、その外見、中身。
機械だという方が不自然だった。
三人はまたいつも通りの話をしていた。
「なあリリー、お前って復帰してからまた移動機械科にいるのか?」
マルストが話しかける。
「うん、そうだよ。レザードは?何かあの新しい人工人間科とやらにいるの?」
「ああ、プログラム科に戻ったよ。」
表情が豊かに戻ったレザードは言った。
レザードはあれから、身なりも綺麗に戻り、表情も豊かに、言葉に生気を感じるようになった。
白くなった髪はそのままだが、ごわごわだったのはかなりさらさらに戻っていた。
誰もリリーを『機械』だと言わない。
それはとても機械に見えないと言うこと以外に、、もう一つ理由がある。
リリーはまだ自分が『生物』だと思いこんでいるからだ。
しかし、誰もそれで問題ないと思った。
リリー復活の話はマウントサークル社員しか知らなかった。
そとの誰に聞いても、
「おや!生きていたのか!!良かった良かった。」
としか言わなかった。
リリーは運良く爆発事故で生き残ったと思いこんでいるから。
全く記憶を変えなかったせいだろう。



マルストは完全に社長のことは忘れ去っていた。
今までの日常が戻ってきたことが嬉しくて仕方がなかった。
しかし、そんなある日。
マルストは疲れて家に帰った。
しかし、奥さんがいない。
少し探してみるが、いなかった。
どこ行ったのだろう。
食卓の椅子に座る。
ふとそこに文字の書いてある紙・・・・・・
置き手紙があることに気づく。
・・・・・・このパターンは。
テレビなどでもよくある・・・・・・
見たくない。
しかし目を背けるわけには・・・・・・
目を向けた。
そこには、想像通りの気が狂いそうなことが書いてあった。



いつもの三人の食卓。
しかしマルストは現れなかった。
食卓だけではなく、会社にも。
心配したレザードとリリーは、マルストの家に行ってみることにした。
社員名簿から家の場所を探す。
小綺麗な一軒家が、マルストの家だった。
ドアノブに手をかけると、ドアは開いていた。
「お〜い、マルスト〜。おじゃまするぞ〜。
何かあったのか〜?」
暗い散らかった部屋の中、マルストがひざまずいていた。
放心状態、と言う言葉がまさにぴったりの顔である。
その顔に心配したレザードが肩をつかんで問いかける。
「どうした!!?何があった!!?」
マルストは我に返ったように
「あ、ああ、レザードか・・・・・」
と言った。
「どうしたのさ?」
リリーが問いかけると、突然マルストが笑い始めた。
「ははっ、ハハハハハ・・・・・
あのな、逃げられたよ、奥さんにな・・・・・・」
その一言は、レザードとリリーを驚かせた。
「ハハハハハはハハハ!ハハハ!そんな物か!!
愛とかってその程度の物なのか!!!ハハハハハ!!!!」
壊れたマルストに、レザードが何かを言おうとした、そのとき。
マルストが、レザードに言った。
「そうだ・・・・愛ってその程度なんだし、俺にも造ってくれよ!!あれを!!そこの」
レザードの手刀がマルストの首に落ちる。
ガッ!
マルストは崩れ落ちた。
何かばらされる前に、口を封じたのだった。
「とりあえず精神科に連れていこうか・・・・・・」
その言葉には、悲しみが大量に含まれていた・・・・・・



その日からだろうか。
何故かレザードの周りに必ず人が来る。
そして、決まってこういう。
「俺にも造ってくれ。」
と。
誰もが『愛する人』を失ったことがある。
その心のスペースを、物で埋めたい、と言うのだ。
レザードは決まって無理だし、ダメだと言った。
そうすると、人々は決まってこういった。
「お前だけずるいな。」
と。
その一言を聞くたびに、レザードはマルストの事を思い出し、
心に杭を打たれたような気持ちになる。
レザードはリリーを造ったことに悔いはなかったが、
次第にレザードを見る人々の目は冷たくなっていった。



帰り道。
レザードとリリーが二人で歩いていた。
あの告白の日から、ずっと二人で帰っていた。
夕焼けで町が赤く染まっている。
マルストは病院で入院している。
自分の心の支えになる人は今リリーしかいなかった。
川辺にさしかかって、無言のまま歩いていたが、
ふとレザードは、手をつないでやろう、と考えた。
自分の手がリリーに触れた瞬間。

冷たい。

《レザードはベットでぐったりと寝ているリリーにすがった。
ヒヤッ。
生気を感じないその冷たさは、レザードを狂わせる。》


リリー・・・・つめたい?
ツメタイ?イキテル?シンデル?ドッチデモナイ?
オナジナノカ?

あのときと・・・・・・同じだぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!


うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!

レザードの悲痛な叫びがこだまする。
自分の胸をかきむしり、泣き声とも、うめき声とも、叫び声ともとれる大声を出す。
リリーが驚いて、
「どうしたの?」
と駆け寄った。
レザードはリリーの手を払い、叫んだ。
「さわるなぁ!!機械!!!!俺に触れるなぁぁぁ!!!!!!」
リリーはその一言に唖然とする。
「リリーの偽物!!コピーなんかでは何の意味もないんだ!
ああ!!わかっていたさ!でも!でも!でも!!!!!!!!」
リリーは何が起こっているかわからなかった。
「うああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
レザードは叫び続けた。
声がかれようとも、
涙がかれようとも、
心が枯れようとも。



いつしかレザードはマウントサークルにいた。
初めてAI・・・『愛』を手に入れた機械・・・リリーはどうなったのだろう。
誰にも見つからず消えた。

また『あのとき』と同じような外見に戻ったレザードは、
そこら辺の名も知らない人に頼まれたようなAIを作りはじめた。
もう、自分でも何をやっているかわからなかった。
できあがるのは完全なAIだけ。
その完全な「AI」には、「愛」がある。
しかし、人間は、機械に愛を求めると、壊れる。
レザードに頼むと、完全な『失った大切な人』の複製を手に入れることができるという
噂はあっという間に世界中に広まった。
レザードは自分が何をやっているかすらわからない。
ただひたすら、何も考えず、作業を続けていた。


世界中から、大切な人を求めてレザードの元に人が集まる。
「愛」を作ってもらった人は喜んで帰っていく。
そして、
ある人は荒れ、
ある人は壊れる。
そして、全てを失う。
マルストも、社長も、名も知らぬ人も、みんな。


いずれ、この世の中には、まともな『心』を持った人がいなくなる。
機械に、「愛」を求めたから。
機械が「AI【愛】」を持った日。

人間の全てが崩れ落ちた。




END



あとがき。

この話は、僕が2年前ぐらいからぼんやりと構成してきた物を、
しっかりとストーリーとして作り直した物です。
最初に考えていた以上に暗い話に仕上がっています。
とにかく・・・・・・相変わらず駄文すいません(泣)
頑張ったんですけどね・・・・・
やっぱりダメみたいです。
所要時間、約3時間。
きつかった・・・・一つ言ってしまうとこれ、
レクイエム〜ラスト・オブ・デッド〜より
かなり長いです・・・・
ジャンルは完全にSFですね。
レザード君は容姿はTOEのキールだと思ってもらってかまわないです(笑)
キャラプロフィールとかもやろうと思いましたが、
辛いんで止めときます(殴)
ただ一つ言えることは・・・・
「人間は、人間以外にAIを求めてはいけません」
って感じでしょうか。


テーマが、
「未来の危険の内の一つ・機械」
でした。
失った人間を機械によりよみがえらせることが可能になる・・・・
その重圧に人間が耐えることはできるのか?
それは正しい行為なのか?
答えはNOでしょう。
人間は、そんなことをしたら、心を失うことになると思います。



それでは。
8000HITおめでとう!!!
次は10000HITで現れる・・・・・・かも。
そんときゃよろしく。



☆あとがき☆

またまたすごい作品をどうもありがとうございました!!
深くも難しい、考えさせられる作品ですね。
に、人間以外に愛を求めちゃダメですか!?わ、私はすでに猫に愛を…(殴!)
今回またもや勝手に曲をつけちゃいましたが…。
最初はもっと狂気を感じさせる曲を選んだのですが、
正直聞いてて気持ちのいい曲ではないので止めました。
う〜ん。なんだかあっていませんね(汗)。
もしてっちゃんがこの曲がいい!というのがありましたら教えてくださいね。
本当にどうもありがとうございました!